「The Apprentice:ドナルド・トランプの創り方」を観れば…

エス・アイ・エム
代表コンサルタント(認定心理カウンセラー)
佐藤 義規

2025年は、世界的に歴史的ターニングポイントとなる年のように思えてなりません。世界が良い方向に動くかどうかは、各国のリーダー次第なのですが、果たしてどうでしょう。ロシア・ウクライナ戦争、イスラエル・パレスチナ戦争などの歴史的出来事が続くなかで、欧州はますます右傾化し、米国ではトランプ政権が復活しました。また、南米でも「アルゼンチンのトランプ」と呼ばれるミレイ大統領が本家トランプ氏や側近のイーロン・マスク氏同様、国連を含む多国間協調の枠組みを無視し、国際会議の場などで関係国との摩擦もいとわない強硬姿勢を取りつづけています。(※1)

本家米国のトランプ政権がどうなるかはこれからですが、すでに一期4年大統領を務めたトランプ氏には、合衆国憲法修正第22条によって残り4年しか残された時間はありません。一部では、ロシアや日本で憲法や党則を都合よく変更して任期の延長を図ったように、憲法を捻じ曲げてトランプ終身大統領誕生という危惧もあるようですが(※2)、就任前から様々な策略を急ピッチでやっているように見えます。最初の2年間で政策の基盤を作り、残り2年で政策を充実・完成させていくとしても、残された時間は決して多くはありません。そのためか、前回批判された親族の要職起用を見送り、次々と周りに自分に忠誠を誓う人たち、いわば自分のクローンのような人間を配置して、司法・国防・国家情報という自分の足もとを揺るがしかねない組織にメスを入れようとしているように思えます。能力よりも忠誠が重要なポイントです。(※3)「お友達人事」と報じているマスメディアもありますが、そんな浅薄な考えではないでしょう。

また、マスコミの影響力を阻害し、自分たちの影響力を強化すべく、AI技術の開発促進に向けた規制緩和や機関の創設などといった飴と、同時にFCCからの圧力(※4)というムチにより、巨大IT企業の懐柔が進んでいるように見えます。(※5,6)Xのイーロン・マスク氏の政権入りや、巨大IT企業CEOの「トランプ詣で」は、そうした利害の一致が成功しつつある一端でしょう。

「関税引上げ」や「不法移民の強制送還」「米国を仮想通貨の首都にする」などに続いて「カナダの併合」「パナマ運河の奪還」「グリーンランドの割譲」といった「とんでも発言」を重ねていますが、それもすべて彼が描いた国家戦略と経済安全保障の狙いからくるものです。彼のスローガンである「Make America Great Again」を体現しており、つまりは米国の利益の最大化です。米国の覇権秩序の両輪は米国を中心とする軍事同盟と自由貿易秩序でした。しかしトランプ氏は、同盟も自由貿易も米国への「ただ乗り」であり、コストを負担してきた米国の利益を損なうものでしかないと考えているようです。覇権国家として米国の力を外に広げることにコストをかけるのではなく、一旦米国をその外から閉ざすことでコスト負担を避けることを目指しているように見えます。これは事実上の米国の覇権からの自発的撤退であり、米国が覇権から退くなかにおいて多国間秩序の再編成が行われることは間違いないでしょう。第2次世界大戦以降現在に至るまで米国は軍事安全保障でも国際貿易でも世界秩序に深く関わってきただけに、覇権からの撤退は国際政治に大きな混乱をもたらすことは避けられません。また、一方で彼の言う「Great America」は「白人のための白人による白人だけ有利な社会」であるという点も理解すべきです。(※7)さらに言えば、富裕層がその中心にいるという点も。(※8)

人口比でますます増えている白人以外のアメリカ国民(※9)がいつそれに気付き抗おうとするかは、トランプ新大統領の政権運営の大きな時限爆弾と言えるでしょう。とはいえ、彼の持つカリスマ性はそうしたリスクすら超えてしまうのかもしれません。1月17日より日本で公開された自伝的映画「The Apprentice(邦題:アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方)」(※9)を観れば、ドナルド・トランプという人物がどのようなメンタリティを持った人物であるかが理解できるように思います。トランプ氏がこの映画の全米公開を阻止しようとしたというのも頷けます。

欧州は、第二次トランプ政権下でNATO(北大西洋条約機構)諸国の協力関係が弱まる方向に向かうでしょう。一方で欧州各国の右傾化が進むことから、ロシア・ウクライナ戦争の先行きはさらに不透明になるでしょう。仮にトランプ新大統領によって米国のウクライナ支援がストップすれば、ウクライナの敗戦となりかねませんし、ロシアによるウクライナ併合や非武装中立化なども十分考えられます。

また、アジアでは、対中関係の重心が軍事から経済に移ることになるでしょう。中国の軍拡よりも米国の市場防衛がトランプ氏にとっては優先事項だからです。東アジアの緊張が増す中で、トランプ新大統領は韓国や日本などの同盟国に対する関税引き上げや米軍駐留経費引き上げなどの圧力を増すことも十分考えられます。トランプ氏から見れば、敵対関係に立つ国家よりも友好国に対する方が米国の圧力による譲歩は得られやすいからです。

日本は第二次安倍政権下ではトランプ氏個人への接近による日米関係の安定を選んだわけですが、安倍政権の選択を今後も踏襲するのか、それとも米国が覇権から退くなかにおいて多国間秩序の再構築を試みるのか、石破新政権の選択次第で日本の未来が大きく左右されることは間違いないでしょう。

※1:「アルゼンチンのトランプ」ミレイ大統領が本家と親密アピール…就任1年、国際協調には後ろ向き(読売新聞)

https://www.yomiuri.co.jp/world/20241225-OYT1T50119/

※2:A Hidden Variable in the Presidential Race: Fears of ‘Trump Forever’(Bloomberg Businessweek)

https://www.bloomberg.com/news/features/2024-05-21/voters-fear-trump-won-t-leave-if-he-wins-2024-presidential-election

※3:ASEAN加盟国は「韓国、日本、オーストラリア」 米国防長官候補が議会で無知さらす(産経新聞)

https://www.sankei.com/article/20250116-KJTQ4LU5FBB4NCS6OJJTSRJBZA/

※4:米トランプ次期大統領 FCC委員長に巨大IT企業批判の委員を起用(NHK)

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20241118/k10014641911000.html

※5:米メタ 第三者ファクトチェック廃止 トランプ氏就任踏まえたか(NHK)

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250108/k10014687371000.html

※6:メタとアマゾン、多様性対策を廃止 トランプ大統領就任前に(Reuters)

https://jp.reuters.com/business/technology/5QJVOX73ZNP7JFTFSSH3MLPKFI-2025-01-11/

※7:アメリカの「偉大」とは トランプ氏が残した言葉<アメリカのつくられ方、そして今>(琉球新報)

https://ryukyushimpo.jp/news/entry-1268319.html

※8:バイデン氏「少数支配の政治が形成」 退任演説で警鐘(日本経済新聞)

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN162QS0W5A110C2000000/

※9:米の白人人口初の減少 20年国勢調査、多様化進む(日本経済新聞)

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN12D890S1A810C2000000/

※10:映画「アプレンティス ドナルド・トランプの創り方」(公式ページ)

https://www.trump-movie.jp/

以上

記事の無断転載を禁じます。

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