F-1留学生の税務申告:収入ゼロでも必要な手続きとは?

CDH会計事務所
国際税務コンサルタント
ハラ 基江

新年のスタートにあたり、F-1ビザでアメリカに滞在している留学生の皆さんにとって重要な「税務申告」についてお知らせします。意外と知られていない事実として、収入の有無に関わらず、F-1ビザの留学生にはIRSに特定の書類を提出する義務があります。

1.所得がない場合でも必要なフォーム8843とは?

F-1ビザでアメリカに留学をされている学生さんは、「収入がなければ税務申告は不要」と思われるかもしれませんが、たとえ日本の親からの仕送りや自費での留学、あるいは全く収入がない場合でも、Form 8843 (Statement for Exempt Individuals and Individuals With a Medical Condition)を提出する必要があります。

Form 8843の目的

F-1ビザ保持者は、通常、最初の5年間は税務上の「免除対象者(Exempt Individual)として扱われます。何からの免除なのかというと、「実質的滞在条件(Substantial Presence Test)の計算」からです。この実質的滞在条件の計算は、外国人が「米国税法上の非居住者」かどうか判定する際に使用され、その判定に合わせて課税の範囲等が決定されます。

F-1ビザ保持者は、このフォームを提出することで、最初の5年間に限りこの滞在条件の計算から除外してもらえます。つまり、「非居住者」のステータスを保持するため、日本での所得があったとしても、米国での課税対象にならないことを意味します。

アメリカに物理的に住んでいるのに「非居住者」とみなされるわけですが、「居住者」と「非居住者」の税務上の定義は、移民法上の定義とは異なります。F-1ビザの留学生は、この特別なステータスを確立するためにはForm 8843を提出しなければなりません。

2.5年間のルールと注意点

5年間ルールのカウント方法

F-1ビザでアメリカに滞在する年の一部は、その年の全体とみなされます。「最初の5年間」は滞在開始月に関係なく、その年のいつから住み始めてもその年を「1年」としてカウントします。

複数回のF-1滞在

過去にF-1ビザでアメリカに滞在していた場合、その期間も5年間のカウントに含まれます。例えば、過去にF-1ビザで2年間滞在し、その後日本に帰国して再びF-1ビザで渡米した場合、新たな滞在期間は累積された3年目からスタートします。 

扶養家族(F-2ビザ)も対象

F-1ビザ保持者の扶養家族(配偶者や子ども)がF-2ビザで滞在している場合も、Form 8843の提出が必要です。

5年以降のステータス判定

5年間の特例期間が終了すると、翌年以降は実質的滞在条件を基に税務上の「居住者」か「非居住者」の判定が行われます。この滞在条件に基づきアメリカの滞在日数が183日以上であれば、税務上の居住者として扱われ、全世界所得の申告義務が発生します。 

3.所得がある場合の申告義務

非居住者とみなされるF-1ビザの留学生であっても、アメリカで所得を得た場合(例:キャンパス内でのアルバイトやOPT中の収入)、以下の対応が必要です。

提出書類:

  • 所得税申告書(Form 1040-NR):非居住者用の所得税申告書

  • Form 8843:特別免除を受ける個人であることを証明するための書類

申告期限:

  • 2025年4月15日

源泉徴収と還付の可能性:

  • アメリカの雇用主は給与から所得税を源泉徴収するため、実際の税額より多く徴収されることがあります。申告書を提出することで過、剰に支払った税金が還付される可能性があります。 

4.学校のサポートを活用しよう

多くの大学の学生課(Student CenterやInternational Centerなど)には留学生のためのサポート体制があります。特に以下の点で役立つと思います。

Form 8843の記入ガイダンス

Form 8843の記入方法について説明書などを提供してくれる大学が多くあります。大学の学生課に確認しましょう。

W-2 の確認

アルバイトをしている学生には、年初に雇用主からForm W-2(給与明細)が発行されます。この書類を申告時まで大切に保管してください。

申告ソフトの利用

多くの大学が、非居住者用の税務申告に特化したSpintaxやGlacierなどのソフトウェアを推奨しています。学生課に問い合わせましょう。

TurboTaxとSpintaxの提携

一般的に使用される税務申告ソフトTurboTaxは、居住者用申告書(Form 1040)を専門としており、非居住者用申告書(Form 1040-NR)を扱ってしていません。一方、非居住者の申告専門のSpintaxは居住者用の申告を扱っていません。この2社はお互いを補完する形で提携しています。もし、どちらの申告書を用いるべきか自分では判断できない場合、どちらかのソフトを使い、投げかけられる質問に答えることで、アドバイスがもらえるようです。

おわりに:卒業後の影響も考慮しよう

卒業後、アメリカでの就職やワークビザ申請を考えている場合、過去の税務申告履歴が移民手続きにおいてチェックされることがあります。不備があると手続きが遅延したり、不利になる可能性があるため、留学生としての税務申告を確実に行うことが重要です。

F-1ビザ留学生にとって、税務申告は複雑に感じるかもしれませんが、学校のサポートや税務ソフトを活用すれば、手続きは思ったよりも簡単に進められるはずです。必要な書類を準備し、期限内に提出しましょう。新しい年が、皆さまにとって実り多いものになりますように。

出典リンク

Form 8843 https://www.irs.gov/pub/irs-pdf/f8843.pdf

Form 1040-NR https://www.irs.gov/forms-pubs/about-form-1040-nr

以上

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