映画『シビル・ウォー アメリカ最後の日』が現実となる日
エス・アイ・エム
代表コンサルタント(認定心理カウンセラー)
佐藤 義規
映画『シビル・ウォー アメリカ最後の日(原題:Civil War)』をご存じでしょうか?(※1)『ミッドサマー』『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』などで知られる独立系映画スタジオ・A24が過去最大の製作費をかけて制作した映画です。物語は近未来のアメリカで起きた内戦を描いたもので、戦争映画でもあり、主人公を含めた4人のジャーナリストがニューヨークから戦場と化したワシントンDCへと向かうロードムービーでもあります。日本では2024年10月4日に劇場公開され、初日から3日間で観客動員12万7,000人、興行収入1億9,800万円を記録し、初登場1位に輝いています。メジャー作品以外の洋画実写作品が首位を獲得するというのは異例の快挙です。1970年代〜1990年代に日本の映画館で映画を観ていた人は感覚的にわかると思いますが、現在の日本の映画業界は当時とは様変わりしています。戦後の日本映画黄金期が終焉を迎え、1970年代半ば以降は、洋画が邦画の興行を上回り、「洋高邦低」の状況がずっと続いていました。それが、2006年から「邦高洋低」へと興行収入で逆転し、以降、その状況がずっと続いています。(※2)週間映画ランキングのベスト10に洋画実写作品が一つも入っていないという週も珍しくなくなっています。そんな現在の日本の映画業界において、『シビル・ウォー アメリカ最後の日』の興行成績は異例中の異例と言えるでしょう。
映画では、アメリカ国内が大きく二つに分かれてしまったという設定です。現実のアメリカにおいても、2016年に初めてトランプ大統領が誕生した時ほど、アメリカ国内の意見が極端に割れた状況はなかったように思います。今回の再選がその分断にさらに拍車をかけていくのは間違いないでしょう。露骨にトランプ氏を批判する世界的アーティストや映画俳優がいる一方で、彼以外が大統領になれば自分たちは生きていけなくなるという人たちもいます。アメリカ人の意見がこれほど両極端に割れたことはトランプ氏登場以前には一度もなかったように思います。映画『シビル・ウォー アメリカ最後の日』では、アメリカの50州が二分し、政府軍 対 反政府軍で内戦が起きているところから始まります。まさに南北戦争の再来なのですが、現実のアメリカの状況を見ると、あながち夢物語とは言えないようにも思えます。
また、トランプ氏の二度の大統領選の相手がともに女性候補(ヒラリー・クリントン、カマラ・ハリス)であり、それに勝利したということも、現代アメリカが抱える潜在的な問題を現わしているように思えます。獲得票数を見ると、トランプ氏は前回のバイデン氏との選挙で負けた時と変わっていませんが、ハリス氏の得票数は前回選挙のバイデン氏の得票数から1,400万票も減っています。つまり、前回選挙ではバイデン氏を支持したが、今回ハリス氏を大統領にしたくない人たちが1,400万人もいたということになります。バイデン政権やハリス氏の政策や実績に対する不満という見方もありますが、有色人種で且つ女性であるハリス氏を大統領にしたくないという人たちが少なからずいると考えられます。あからさまな女性蔑視や差別はないものの、表立っては言わないが「大統領は女性より男性」といったような古い考えが残っているのも事実でしょう。民主主義大国のアメリカであっても、ガラスの天井はまだ当分破られそうにありません。
映画『シビル・ウォー アメリカ最後の日』の中で、強く印象に残るシーンがあります。権威主義的な大統領にインタビューすべくワシントンDCに向かっていた主人公たちは、大量の死体を埋葬している兵士たちに遭遇して窮地に陥ります。香港のジャーナリストが目の前で銃殺され、「我々はアメリカ人です」と弁明すると、銃を持った”赤いサングラスの男”が「What Kind Of American Are You?」と聞きます。(※3)同じアメリカ人に銃を突き付けて問いかけるこのシーンは、とても現実感のある恐ろしさを感じさせます。「Black Lives Matter」の背景にあるアメリカ社会の闇と同じものを感じます。
実際に日本で起きた事件を映画化した『福田村事件』でも、香川県からやってきた薬の行商人を変な日本語(讃岐弁)を話すから朝鮮人だと決めつけ、福田村(今の千葉県野田市)の村人たちによって9人が虐殺された事件の顛末が描かれています。同じ日本人が間違えて殺されたこともショックですが、何よりも人種や思想が虐殺や殺人を正当化する理由(少なくとも当事者にとっては)になってしまうということがとても恐ろしいです。映画『シビル・ウォー アメリカ最後の日』での「What Kind Of American Are You?」という言葉は、その後に続く残虐行為を正当化するための枕詞でしかないでしょう。
今年1月19日に保守論壇の評論家でジャーナリストの櫻井よしこ氏が、X(旧Twitter)に投稿した「あなたは祖国のために戦えますか」という発言がネットで物議を醸していました。(※4)「多くの若者がNOと答えるのが日本です。安全保障を教えてこなかったからだ」と櫻井氏は発言しています。織田教授が安全保障を唱えるのは 日本が置かれている国際的、軍事的な微妙な立場を理解しておくべきだと述べているのであり、決して「戦争をせよ」と教えているわけではありません。意図的な読み違いか論理のすり替えとしか思えません。
また、平和のために武力が必要だと考える米国と、平和のために武器を捨てて対話せよと唱える日本国憲法では同盟国であっても「平和」ヘの考え方が根本から異なります。しかし、櫻井氏の発言のように日本がアメリカ型の価値観に近づいているように感じることが増えているように思います。さらに言えば「お国のために死ね」と言ったかつての帝国主義的価値観に逆戻りしているようにも見えます。「祖国」を持ち出して「戦う覚悟」を若者に問う者たちの意見に耳を傾けるべきではありません。彼らは決して戦場に行かない者たちです。若者たちに殺人をそそのかし、祖国のためという枕詞を使って正当化しようとしているのです。そもそも祖国のためにとは、いったい誰のためなのでしょう?裏金作りをして責任も負わず、国民の生活を十分に考えないような「政府」や「議員」を守るためなのでしょうか?
アメリカの話に戻りますが、今回トランプ政権を誕生させたアメリカ国民は、今後起きるであろうアメリカ社会の変化やトランプ氏やその周辺の人たちの変質や論理のすり替え、嘘やごまかしの前でどのように判断するでしょうか?その時、映画『シビル・ウォー アメリカ最後の日』が現実のものとなるかどうかはわかりませんが、アメリカ国民だけでなく、この世界が大きなリスクを抱えたことは間違いないでしょう。
※1:Civil War(A24)
https://a24films.com/films/civil-war
※2:映画興行収入過去データ一覧:{1999年まで配給収入}(一般社団法人日本映画製作者連盟)
https://www.eiren.org/toukei/data.html
※3:What Kind Of American Are You Scen(CIVIL WAR Movie CLIP)
https://youtu.be/lgKGIhfKrpY?si=t-WPrA9AqHaICF1Y
※4:櫻井よしこ氏《あなたは祖国のために戦えますか》の投稿が故・安倍元首相にも“飛び火”(日刊ゲンダイ)
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/335066
※5:空から提言する新しい日本の防衛 - 日本の安全をアメリカに丸投げするな -(ワニブックス)
https://www.wani.co.jp/event.php?id=7819
以上
記事の無断転載を禁じます。
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