アメリカの多様化と人種差別について

2023年6月29日、米国連邦最高裁判所(Supreme Court)は、アジア系アメリカ人(主に中国系)の学生団体「公平な入学者選抜を求める学生たち」(SFFA – Student for Fair Admissions)がハーバード大学とノースキャロライナ大学に対しておこした裁判で、ハーバード大学がアファーマティブ・アクション制度を採用しているのは違憲である、という判決を下しました。

アジア系の学生は、白人も含めた別の人種の学生よりSAT(大学入学のための共通テスト)の点数も、高校の成績もはるかに良いのに、アファーマティブ・アクションの為にハーバード大学とノースキャロライナ大学への合格率を落とされた、と抗議をしてきました。

ただ、全米でみると、アジア系の人口はわずか7.2%であるにもかかわらず、ハーバード大学の学生の29%はアジア系の学生だそうです。(参考文献:”Supreme Courts Guts Affirmative Action, effectively ending race-conscious admissions”, WBEZ Chicago, June 29, 2023)

ここで、アファーマティブ・アクションについておさらいをしましょう。アファーマティブ・アクションとは、マイノリティー(黒人、ヒスパニック、アジア系、女性など)をマジョリティー(多くの場合は白人男性)の差別をなくすのはもちろん、積極的に雇用機会を与えましょう、というルールです。そして、社会の多様性(ダイバーシティー)を高めましょう、ということです。

企業でも、採用する地域の人種や性別の分布にあわせ、マイノリティーをマジョリティーの採用率の最低80パーセントは採用し、企業の多様性を高める必要があります。

少し前になりますが、ニュースウィークによると、アジア系アメリカ人がハーバード大学に合格するには、SATの点数を白人よりも140点、ヒスパニックよりも270点、黒人よりも450点多く取る必要があるという調査もありました。(参考文献:”At Harvard, “too Jewish” has become “too Asian” by George C. Leef, Newsweek, 6/14/2015)

最も、アメリカの大学の入学選考は、SATの点数だけで決まるわけではありません。高校の成績証明書も去ることながら、スポーツ、ボランティア、音楽、などの取り組み方、高校の先生方や他の団体からの推薦状、どのような語学ができるか、なども選考の大事な基準になりますので、テストの点数だけでは論議をすることはできません。

最近、逆にSATの点数を入学選考から外している大学も出てきました。アイビー・リーグの大学ではありませんが、名門シカゴ大学もその一つです。

SATの点数は、親の収入が多い家庭の子供の方が高い、という調査もあります。そのため、SATの点数を重視すると、大学に同じような家庭・人種出身の学生ばかりが集まり、大学に活気がなくなる、という考えから大学入学選考からSATをはずした大学があるのです。

日本では、今までほぼ積極的是正政策はありませんでしたが、最近になって、工学部に女子枠を作ろう、という動きがあります。

「トヨタに限らず、半導体メーカーも含めて、産業界からの女性人材のリクエストはずっとありました。企業にとって、女性目線での製品開発というのは不可欠です。例えば、性能が同じであっても、カラーリングやデザインが異なれば売り上げがぜんぜん変わりますから。それと、ダイバーシティー、女性や外国人も含めたなかで、多様な社会ニーズに対応することが重要です」(参考文献:「増える工学部による女子枠は男子学生に対する逆差別なのか? 制度の背景にトヨタあり。(Aera 2023年3月8日)

アメリカのように法律で積極的是正政策が打ち出されているのとは違い、産業界からの要請で女子枠を作る、というのが日本の大学の実情のようです。

最も、米国の大学に比べて、日本の大学は極端に多様化が進んでいない面もあるので、単純比較をすることはできません。名古屋大学では、「工学部には7学科ありますが、化学生命工学科と環境土木・建築学科では、女子学生の割合が20%を超えています。ところが、電気電子情報工学科とエネルギー理工学科は特に少なくて、6%前後しかいない。ですから、その二つの学科を先行して女子枠を実施しました」

学生の20%にしても、女性はわずか5人に1人なので、極端に女性が少ないですね。

ある意味、米国ではアファーマティブ・アクションを取らなくでも、ある程度は多様化 が進んだから、だんだんアファーマティブ・アクションを見直す時期になってきた、という側面もあるのかもしれません。

ただ、私の個人的な感想ですが、いくらSATの成績と高校の成績が良くても、本来米国の人口の7.2%しかいないアジア系の学生が、ハーバード大学は29%もいる、ということを考えると、単純にアジア系学生差別だとも思えません。そもそも、シカゴ大学のように米国の大学選別方法を変更するしかないと思います。

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