国民年金に対するWEP誤適用は解決しました

海外年金相談センター
代表 市川俊治 氏

日本の年金受給者が米国年金受給の申請をすると、米国年金の一部、最大512ドルが毎月減額されることがある事実を皆さんご存じですか。

これはWEP(Windfall Elimination Provision)というSSA(米国社会保障庁)の規定に依るものです。WEPの適用対象は「勤労」に基づく年金で、「居住」に基づく「年金」は適用外です。しかしながら2022年7月までは「居住」に基づく国民年金も減額の対象となっており、この誤適用を解消すべく「海外年金相談センター」は10年以上に亘り活動を展開してきました。その結果、2022年7月1日付けで国民年金はWEPの適用対象外であるという通知がSSAから関係先にメール送信されました。 

これまでの「国民年金へのWEP誤適用解消の活動」が実りました。突然の吉報です。以下その内容をご説明いたします。

①  厚生年金受給者が受給する1階部分の国民年金もWEP適用外 

日本の年金制度はすべての加入者に共通する国民年金(Basic Pension基礎年金、老齢基礎年金とも呼ばれる)の1階部分と厚生年金(Employee’s Pension Insurance 老齢厚生年金とも呼ばれる)の2階部分で構成されています。厚生年金受給者は、1階部分の国民年金と2階部分の厚生年金を受給します。今回この1階部分の国民年金もWEP適用外であることが確認されました。その結果、会社員(第2号被保険者)の配偶者(第3号被保険者)の受け取る国民年金もWEP対象外となりました。

この決定によりWEP適用対象が、従来の1階部分の国民年金と2階部分の厚生年金の合計額から、2階部分の厚生年金のみに変更となります。従いまして、WEP適用となっている米国年金加入期間10年以上(40クレジット以上)の厚生年金受給者の中には、受給額の減額幅が縮小される方が少なからず出てくると予想されます。SSAは、WEP適用開始時まで遡り受給金額を是正すると発表しています。

②  現受給者の過去減額分の是正方法

国民年金へのWEP誤適用、または、厚生年金受給者でWEP適用を受け米国年金の減額を受けてきた方にとり大切な情報です。今後、SSAは利用可能な受給者の給付記録等を活用して、今回の見直しにより影響が出る受給者を特定した上で、ケースバイケースで順次レビューを行います。その結果、是正の必要が認められる場合には、個別に受給者に連絡して必要な情報を求める予定です。レビューの結果、是正を要すると判断された方には、WEPが適用された時点に遡って是正されます。この作業は膨大かつ複雑ですので数年にわたる作業となると思われます。

③  新規受給者について

米国年金に新規受給者で国民年金を受給している方については、WEPの適用を除外するよう、既にSSA本部から各ローカル事業所に対して指示書が発出されています。

④  WEPに関するSSAの事務マニュアル改定

日本の国民年金をWEPの適用除外と判断したことを踏まえて、SSA内の事務マニュアルの改定が行われました。

日本の年金に対するWEP適用の変更点は上記の通りです。

以下は、連絡事項とお願いです。 

1.米国年金受給申請時にSSAから日本の年金受給確認があります。米国在住

の受給者は日本年金機構から送られてくる「国民年金・厚生年金送金通知書」を証拠として提出します。通知書には基礎年金(Basic Pension)と厚生年金(Employee’s Pension)の2か月分の年金額が表示されています。①WEP適用対象は厚生年金欄の金額だけであり、基礎年金はWEP適用外であること②記載年金支給額は2か月分であることーをSSA窓口担当者に明確に伝えてください。日本在住の受給者は、「国民年金・厚生年金保険金額改定通知書」をご利用ください。

2.SSAによるWEP誤適用是正の方針は喜ばしいことですが、私としては、現場レベルでSSA本部の方針に沿って着実に是正がなされていくことが重要と考えます。

つきましては、皆さんにお願いですが、今後WEPに絡んだ状況を是非私にご連絡頂ければ幸いです。この吉報が広く現場に浸透するまでウオッチし、更なる是正が必要と思われる点がないか確認したいと思います。“WEP適用見直しのとおり無事過去の誤適用が返金された”“ソーシャルセキュリティを今年から新たに受給したがWEPの適用無く満額受け取ることができた”“厚生年金受給者だが、減額される額が減り、過去の誤適用分が返金された”“送金通知書の記載額全額がWEPの対象となってしまった”等何でも結構です。

いずれにしても、私にとって官民が協力して、長年取り組んできたWEP誤適用問題がこのように100%に近い形で解決出来き、日米で活躍される方々の老後の保障に少しでも寄与出来ることはこの上ない喜びです。振り返れば、WEPの誤適用で減額された方からの悲痛な叫びを受けて取り組んだ誤適用の是正が実現できたことは凄いことだと感じます。

官民が一体となり日本国民(日本の年金受給者)の財産を守るために外国の規定を修正出来た事例は多くはないと思います。また今回の一連の修正が、特別立法でなくSSAからの通知一本で実現されたことにも驚いています。Fairnessを大切な規範とするアメリカなのでしょうか。 

末筆ながら、SSAとの交渉窓口としてご尽力いただきました在米日本大使館の皆様、とりわけ担当窓口の方には大変ご尽力いただきました。早期解決の嘆願書を大使館・総領事館宛に投稿して下さった日米在住の皆様、更には全米の日本人会、日本商工会、コミュニティー紙関連の皆様、私の活動を支えて下さっているボランティアの皆様に心よりの謝意を申し上げます。

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記事の質問は市川までどうぞ。

年金の受給資格があるか、年金額はどれほどか、支給開始はいつからか等ボランティアで調査致します。年金申請手続きの代行もいたします。年金、国籍、日本帰国のサポート、でご相談のある方はご連絡下さい。

海外年金相談センター
代表 市川俊治
http://nenkinichikawa.org   E-Mail shunjiichikawa@gmail.com
〒162-0067  東京都新宿区富久町15番1-2711   TEL 03-3226-3240

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