一時帰国が長期化したときの「再入国許可書(Reentry Permit)」と永住権の維持・放棄

CDH会計事務所
国際税務コンサルタント
ハラ 基江

米国永住権(グリーンカード)をお持ちの方が日本に一時帰国する際、予期せぬ事情で滞在が長引いてしまうことがあります。たとえば、家族の介護や自身のケガ・体調不良などで予定より長く滞在することになるケースです。このような場合、米国への再入国や永住権の維持に影響する可能性があります。

アメリカ再入国時に永住権(グリーンカード)を維持できるか、あるいは自ら放棄する判断をすべきか、重要な判断を迫られることになります。その分岐点となる「再入国許可書(Reentry Permit/リエントリーパーミット)に関する基礎知識と、将来的な永住権放棄時に注意すべき資産整理や税務リスクについて解説します。

一時帰国が長期滞在へと変化するリスク

当初は数週間~数か月の予定だった日本滞在が、やむを得ない理由で1年を超える長期不在になってしまうケースがあります。1年以上米国外に滞在する、あるいは短期の米国滞在を何度も繰り返すと、再入国の際に「永住の意思がない」とみなされ、入国を拒否されたり、永住権の放棄を促されたりするリスクが高まります。

実際に、空港での入国審査では「次からはReentry Permit(再入国許可書)を取得してからくるように」といったアドバイスや警告を受ける例も報告されています。これは事実上、次に同様の状態で入国した場合、永住権を維持できない可能性があるという警告と受け止めるべきでしょう。

永住権を維持するなら、出国前に再入国許可書の取得を

1年以上の米国不在が見込まれる場合、出国前にForm I-131を用いてReentry Permit(再入国許可書/リエントリパーミット)を申請することが推奨されます。この書類があれば、最長2年まで米国外に滞在しても永住意志を証明しやすく、再入国時のリスクを下げることができます。

注意点:

  • 申請後、バイオメトリクス(指紋採取)は米国内で受ける必要がある

  • 許可書の発行には12~14か月程度かかることもあり、早めの対応が重要

  • 許可書自体は、日本の米国大使館で受け取ることも可能

滞在長期化によって必要となる「日本からの海外送金」と注意点

米国に戻る意思はあっても、滞在が長期化すると日本での生活費が不足することがあります。そうなると、米国の銀行口座から日本の口座へ海外送金を行う必要が生じるかもしれません。

このとき、米国のオンラインバンキングにアクセスするためには、二段階認証(2FA)が必要です。特に、SMSでワンタイムパスワードを送信する方式を使っている銀行が多く、米国の携帯電話番号を維持しておく必要があります。 

多くの銀行では:

  • 携帯電話へのSMSによるワンタイムコード送信

  • メールによるワンタイムコード送信

  • 承認アプリ(Google Authenticatorなど)によるコード生成

対応策としては:

  • 米国キャリアの国際ローミングを有効にしておく

  • 海外でもSMSが受け取れる設定にする

  • SMS以外の承認手段(承認アプリ、メール)に切り替えておく

資金の移動によって生じる税務上の注意

滞在が長引き、海外送金によって日本の銀行口座に資金が入金されると、その日本の口座がFBARやFATCAの対象になる可能性があります。送金の結果、預金額が1万ドルを超えた場合、FBAR(外国口座報告義務:FinCEN Form 114)の対象となります。 

特に注意すべきなのは、まだ永住権を正式に放棄していない時点では、日本で住民票を入れていても米国税務上「米国居住者扱い」であり、米国への申告義務があるという点です。したがって、日本の銀行の残高には注意を払いましょう。 

永住権放棄を決断する前後での準備 

やむを得ず日本での生活を本格化させ、永住権を正式に放棄することを決意した場合、米国内資産の処分と送金が本格的に必要になります。このときも、前述のオンラインバンキング認証やFBAR、海外送金の税務リスクがかかわってきます。また、永住権放棄はForm I-407を通じて行う手続きですが、その前に税務上「Covered Expatriate」とならないようにするためのExit Tax(出国税)対策も重要な検討事項になります。 

おわりに:不確定な将来を見据えた準備を

一時帰国が長期化する可能性がある場合、リエントリーパーミットの取得を検討することが永住権維持の基本方針です。同時に、資金の送金や税務面の影響についても十分な準備が必要です。たとえ「永住権を維持する」つもりで出国したとしても、途中で状況が変わり「戻れない/戻らない」選択を迫られることは十分にありえます。そうなったときに備えて、携帯電話の設定、オンラインバンキングの確認、日本の口座管理など、移動とお金に関わる準備を怠らないことが、将来の安心につながるでしょう。

参考:

以上

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ハラ 基江

CDH会計事務所Cross-Border Manager

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