日本とアメリカの給与支払頻度の不一致
パシフィック・アドバイザリー・サービス
代表取締役社長
武本 粧紀子
現在、期間限定で日本で働いている息子に聞かれました。
「10月に働いた分、11月の末にならないと払ってくれなかったけど、日本て一か月に一度しか給料払ってくれないの?」
日本では、「労働基準法第24条」で、賃金は一か月に一度以上、給与を全額労働者に払うよう定められています。働いた月の月末に締めて、翌月15日とか、25日とか一定の期日に支払うことが義務づけられています。(参考文献:「賃金の支払い方法に関する法律上の定めについて教えてください。」厚生労働省: https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/faq_kijyungyosei05.html )
息子は、派遣会社を通して、単発の仕事をしています。日本では、正社員でないパートやアルバイトにも、月末にその月に働いた時間を集計して、翌月の25日とかに給料の支払いをしているのが主流のようです。
雇用主の立場からすれば、月に一度給料計算をすれば良いので楽です。でも、その習慣をアメリカに持ち込めるか、と言えば、簡単にはできる、とは言えません。
以前も書きましたが、米国では時給建てで一定の労働時間を超えると残業手当が付くNon Exempt従業員と、月給または年俸建てで、専門職であり、残業をしても残業が付かないExempt 従業員がいます。(コントラクトで働いている人もいますが、コントラストはいわゆる「自営業」なので、ここでは除きます。)
米国では、雇用主からお給料を受け取る頻度がいくつか種類があり、US Bureau of Labor Statistics(米国労働統計局)の2023年の統計によると、従業員がお給料を受け取る頻度は、以下の通りです。
1週間に1度:27.0%
2週間に1度:43.0%
月2回:19.8%
月1回:10.3%
(参考文献:”Current Employment Statistics – CES (National)”, US Bureau of Labor Statistics (米国労働統計局)
毎週、または隔週で給料日がある理由の一つは、40時間以上働いたら基本時給の150%が残業手当として付く(カリフォルニアなど一部の例外を除く)という法律と関係があります。残業手当の計算方法が一週間ごとになっているため、一週間ごとに給与計算をする必要があります。
日本は、一日8時間以上の勤務について残業手当が付くので、一か月ごとの清算でも大丈夫ですが、こちらは40時間ルールがあるので、一週間単位で計算する必要があり、実際問題、週単位で計算したものを月1度給料を支払うと、逆に半端がでて面倒、というのもあります。
では、雇用主と従業員が合意したら、Non Exemptの従業員に月1回お給料の支払いをしてもよいのでしょうか?
州の法律にもよりますが、大体の州でできません。私の住んでいるイリノイ州では、Non Exemptの従業員にはお給料の集計が終わってから「13日以内」にお給料を支払う必要がある、という法律があります。つまり、雇用主と従業員のお互いの合意があれば、月に2回の支払いは可能ですが、1か月に一度は違法になります。
では、Exemptの従業員はどうでしょうか?
一か月に一度お給料を受け取っている従業員もいますが、月に2回お給料を受け取っている、という従業員の方が多いです。
「月給$5000」として雇ったExemptでも、一か月に2回、$2500ずつお給料を受け取っている人の方が多いのが現実です。Non Exemptのお給料日に合わせて、一か月に$5000、つまり年俸$60000から一年間52週、2週間に一度お給料を支払うために26で割って($5000 x 12month / 26)$2307.69ずつお支払いしている雇用主さんも多いです。もし、雇用主さんが事務手続きのために、ExemptもNon Exemptも同じ日にお給料を支払いたいのであれば、Exemptの給料日をNon Exemptの給料日に合わせる方がずっと簡単ですし、合法的です。
前にも書きましたが、本人が希望するので一般事務などのNon Exemptの仕事と思われる人をExemptで雇うのは法律で禁止されています。単に給料が高いからExemptという訳ではありません。管理職のタイトルをつけてあっても、州が定める「管理職」の定義にあっていない場合はExemptとはみなされません。ついでに言えば、無給のインターンシップもかなりの確率で違法になります。
一般企業でいう「エグゼンプト」の中には、上級管理職(Executive Exemption)、管理職(Administrative Exemption)、専門職(Professional Exemption)、IT職(Computer Employee Exemption)、営業職(Outside Sales Exemption)、などがあります。いわゆるホワイトカラーの管理職・専門職です。米国労働局(U.S. Department of Labor)の規定では、最低賃金などの規定がありますが、給料は月給建てのことが多く、残業手当はつきません。
州が定めた、Exemptの定義にあっていない従業員をExemptとして雇っていた、として、後で雇用主に残業手当を支払う必要が生じた、という例もたくさんあります。最初に残業代を含めた月給・年俸を支払ってあってもExemptの定義にあっていない仕事をやっていたのであれば、のちのち「本当はNon Exemptである」とみなされる可能性があります。Non Exemptとみなされれば、当然、過去に遡って「未払い分」の残業手当を支払う必要がでてきます。
お互いが合意したから、と言っても、法律に従う必要があります。
本人が望んでも、Exemptとして月給で雇う、月1回給料を払う、というのは注意が必要です。後でトラブルにならないように、まずジョブディスクリプションをつくることはもちろんですが、必要であれば、専門家に相談することをお勧めします。
記事の無断転載を禁じます。
———————————————
35年以上、PASは雇用主さまのバイリンガル・バイリンガル以外の人材探し、候補者さまのお仕事探し、人事コンサルティングを日系企業さまや個人事業主さまの為に行ってきました。シカゴとシカゴ郊外はもちろん、中西部のお客様のニーズにもお答えしてきました。
NEW! セールスエンジニア(テクニカル・コンサルタント)(イリノイ州シカゴ郊外)
NEW! バイリンガル・カスタマーサービス(テネシー州ナッシュビル)
弊社は人材紹介・派遣だけではなく、人事コンサルタントも行っています。ご質問などございましたら、武本粧紀子 (stakemoto@paschgo.com 847-995-1705) までお問い合わせ下さい。