日米間の相続税および贈与税の違いは非常に大きい場合があります

CDH会計事務所
米国公認会計士
武藤 登

米国に永住している、または市民権を持っている多くの日本人、とくに退職を控えている、またはすでに退職している方々は、自分がこの世を去る日について計画することが本当に必要です。

ところが米国に住む日本人があまり馴染みのない分野の一つが、米国の相続税や贈与税に関することです。特に、日米間の税制の違いが大きな課題となります。これらの違いを理解していない、またはこれらの違いを乗り越えるためにプロフェッショナルと連携しない場合、配偶者や子供、相続人の財務状況に大きな影響を与える可能性があります。

ここで、米国と日本の相続税および贈与税の違い、そしてそれに関連するいくつかの考えについてお話したいと思います。

1.    日米の比較

日本では相続人・受贈者が遺産税 ( 相続税 )・贈与税を支払うのに対し、米国では被相続人・贈与者が遺産税 ( 相続税 )・贈与税を支払うというのが大きく異なる点です。

2.    連邦遺産税 (Federal Estate Tax)

米国では財産の移転に伴い、それぞれに贈与税、遺産税、世代跳躍移転税という課税制度があります。つまりその人の生涯に渡り財産が移転する度に課税する生涯累計課税制度です。それに対して生涯非課税枠が設定されており、2024年度は13,610,000ドルとなっています。

(例)もしあなたが1,018,000ドルを米国在住の子供に贈与したとします。

  • 贈与の年間非課税枠は18,000ドルで、その年間非課税枠を超えての贈与となるため贈与税の申告が必要です。

  • しかし実際に贈与税を支払うことはありません。

  • この場合は1,018,000ドルから年間非課税枠の18,000ドルを引いた1,000,000ドルを、贈与税の非課税枠として使用したとForm 709で申告することになります。

  • その結果、生涯非課税枠が1,000,000ドル減額されます。

  • つまり相続時に残された非課税枠は12,610,000ドルということになります。

 連邦の遺産税も相続税も両者の国籍及び永住権所持者を含む居住者か非居住者かで大きく異なります。米国市民及び米国居住者は全世界の財産が対象となります。 但し、もし永住権所持者であっても遺産税における居住地の判定の際に、もし将来日本に帰国する意思・意図があると判断されると、居住者ではなくなる可能性があります。

<被相続人が米国市民の場合>  

米国市民から婚姻関係にある米国市民に対しての財産の相続は、無制限に非課税です。米国市民から婚姻関係にない米国市民、米国居住者、米国非居住者への相続は、非課税枠 13,610,000 ドルが適用されます。

<被相続人が米国居住者の場合>  

米国居住者から婚姻関係にある米国市民に対しての財産の相続は、無制限に非課税です。米国居住者から婚姻関係にない米国市民、米国居住者、米国非居住者への相続は、非課税枠 13,610,000ドルが適用されます。

<被相続人が非居住者の場合>  

米国非居住者から婚姻関係にある米国市民に対しての米国にある財産の相続は、無制限に非課税です。米国非居住者から婚姻関係にない米国市民、米国居住者、米国非居住者への相続は、非課税枠60,000ドルが適用されます。 この非課税枠は毎年変更される可能性がありますのでご確認ください。

<解説>

婚姻関係にある米国市民への相続はどのステイタスからであろうと無制限に非課税です。反対に米国市民から婚姻関係にない米国市民や居住者及び非居住者への相続は全て制限され 2024 年度の非課税枠は13,610,000ドルとなります。 累進課税の最高税額は 40%です。死後 9か月以内に Form 706を申告しなければなりませんが、6か月の延長が可能です。

< Case Study >

もしご夫婦お二人がグリーンカードを放棄して日本に帰り、非居住者となった夫が米国に財産を残して亡くなった場合はどうなるのでしょうか。

  • 被相続人が非居住外国人である場合の非課税遺産枠は、上記のように60,000 ドルとなります。

  • 米国にある財産が$60,000を超える場合は、相続発生から 9か月以内に遺産税申告書 (Form 706-NA)を提出する必要があります。

  • 不動産を所有している場合は、不動産鑑定士に依頼し評価額を鑑定してもらい、弁護士費用等は控除の対象となります。

  • 遺産税は主に、遺言執行人や遺産管理人が申告・納税義務を果たします。

このForm 706-NAを申告しないとIRS はTransfer Certificateを発行してくれません。遺産を管理している銀行や証券会社はそのCertificateがないと、遺産をリリースしてくれません。

<日米贈与及び遺産税条約 >

相続人が米国非居住者でも日本在住の場合は、この条約第4条により米国の非課税遺産額を考慮する特例が認められています。

  • 財産を受け取る人が日本にいる場合は、米国国内にある遺産額の全世界遺産額に対する割合で、米国の非課税遺産枠$13,610,000を案分し適用することが出来ます。

  • もし遺産税を納付した場合は、日本で外税控除を適用することも可能です。

<日本から財産を相続した場合>

米国市民及び米国居住者から日本にある財産を相続する場合は、前述と同様の相続の扱いとなります。しかし米国非居住者から日本にある財産を相続する場合は、米国市民、米国居住者、米国非居住者、いずれが相続人であっても遺産税は適用されません。

但し、米国非居住者から年間 10 万ドル以上の相続及び受贈の場合は、その年度に Form 3520 で開示申告をしないと最高25%のペナルティが課されますのでご注意ください。

<州の遺産税:State Death Tax>

コネチカット、コロンビア特別区、ハワイ、イリノイ、メイン、マサチューセッツ、メリーランド、ミネソタ、ニューヨーク、オレゴン、ロードアイランド、ベルモント、ワシントン州で適用されます。

  • 非課税枠は州により異なり、累進課税の最高税率も州によって 12 ~20%です。この遺産税は連邦遺産税から控除の対象となります。

但し、連邦遺産税は 13,610,000ドルまで非課税のため、必ず控除できるとは限りません。大きな遺産がなくても、州によっては死んでもお金がかかることになります。

<州の相続税:State Inheritance Tax>

アイオワ、ケンタッキー、ネブラスカ、ペンシルバニア、メリーランド、ニュージャージー州でのみ適用されます。

米国では前述したように被相続人 ( 実際は代理人)に納税の義務があります。ところがこれらの州は、日本と同様に相続人に課せられる相続税があり、最高税率はネブラスカ州が一番高く 18%です。配偶者は全額非課税ですが、直径家族は一部が非課税となります。

以上

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