映えとフェイクが溢れる社会:物差しの無い時代
エス・アイ・エム
代表コンサルタント(認定心理カウンセラー)
佐藤 義規
自分の物差しで他人を測るな」というのはもはや過去のことのようです。今は「他人の物差しで自分を測る時代」となっており、言い方を変えれば、物差しを持たない人たちが’、”映え”や”煽情的なフェイク情報”を基準に意見や行動を決める(左右される)時代となっています。インターネットとスマートフォンの急速な普及がSNSという新たなコミュニケーションツールの台頭を加速し、さらに人工知能(AI)の進化が一層この傾向に拍車をかけているということでしょう。
前回の米国大統領選挙では数多くのフェイク情報だけでなく、巧妙に作られたフェイク映像が拡散されました。(※1)それらのフェイク情報やフェイク映像が米国民の投票行動に影響を与えたことは否めないでしょう。トランプ氏はこうしたフェイク映像をも自身の選挙活動に利用しており、確信犯であると言えます。(※2)
こうした事例は米国に限らず、日本でも数多くみられるようになりました。例えば、昨年11月の兵庫県知事選挙の際、斎藤氏や有力候補の稲村和美氏へのフェイク情報や真偽不明の情報が、有権者の投票行動に大きな影響を与えたことは間違いないでしょう。斎藤氏においては、パワハラやおねだり(横領ないし背任、あるいは窃盗の疑い)などの疑惑で、選挙戦のスタート時は県民の支持がほとんどありませんでした。しかし、その後SNSなどに上がった「パワハラをしていない」という根拠不明な情報や「着手率」を「公約実現率」と歪曲し「公約実現率98.8%」と事実と違った情報が風向きを変えていきます。そして、「斎藤氏は被害者で改革を嫌うマスコミや既得権益層にハメられた。」といったネット上の書き込みがそれを読んだ県民の道徳的直感や情動的共感を強く煽ることとなり、それが同情票や強力な応援につながり、急速な支持率上昇から当選へと至ることになります。NHKから国民を守る党代表の立花氏がこうしたフェイク情報に信憑性を与えたこともおおいに影響しました。
一方で、有力候補であった稲村氏に対しては、「稲村氏が当選すると外国人の地方参政権が成立する」というような嘘の情報が拡散され、誹謗中傷が横行したために有権者の支持を大きく損なうことになります。稲村氏に関しては、県内29市のうち22市の市長が稲村氏の支持を表明し、選挙期間中に首長が連名で特定の候補者支持を明らかにするという異例の応援活動もありました。しかしそれが稲村氏は既得権益に取り込まれたとネット上で叩かれる一因となり、既得権益と戦う斎藤氏を応援しようという声が拡散され、むしろ逆効果となってしまいました。また、稲村陣営はネット上での妨害活動によってSNSのアカウントが凍結され、選挙活動が不当に妨害されたことも致命的でした。
選挙戦における同様のフェイク情報は前回の都知事選挙でも見られ、こうしたフェイク情報が少なからず有権者の投票行動に影響を与えたことは否めません。(※3)
また、為政者がそうしたフェイク情報を巧妙に利用して世論を誘導しようとするのは歴史的にも明らかです。最近のトランプ大統領によるXへの書き込みなどは、まさに巧妙な情報操作による世論誘導と言えるでしょう。最近のトランプ大統領がXに書き込んだ「日本のコメ関税700%」発言などはその一端でしょう。(※4)
もっとも、この発言の背景には国民、特に農家に対する自民党と農水省が長年にわたって行ってきた悪質な欺瞞、姑息な情報操作があることも知っておくべきです。(※5)
残念なことに、市民生活を守るための最大かつ直接的な権利である選挙という場を、SNSに溢れる「映え」やネット上の煽情的なフェイク情報を安易に信じて行使する人たちが増えているようです。(※6)
インスタ映えに熱心なあまり、マナー違反やフェイク情報の拡散や、時に犯罪的なルール違反を行う人達は、「インスタ蝿(ばえ)」などという蔑称で呼ばれ始めています。彼らにとっては「映え」、すなわちSNS上の読者ともいうべき人たちからのアクセスと「いいね」の数がすべてですので、自分が流した情報やコメントでどのような社会的影響が出ても関係ありません。そこにあるのは、エゴ化という「アイデンティティの鮮明化」です。ここには、大きく分けてステータス志向、自己表現重視志向、経済的安定志向、環境や社会への配慮志向という4つの心理特性が見られます。個々の詳細についてここでは触れませんが、共通点は自己顕示欲の現れであり、承認欲求の発露です。自分の写真をオシャレに加工して投稿するというレベルであれば問題ありませんが、(※7)フェイク情報の投稿や拡散によって他者の投票行動を左右し、それが更に拡散されることで選挙結果にまで影響を与えてしまうというのは果たしてどうでしょう。
そもそもの目的が社会のためというような公徳心や利他性、他者意識といったものではなく、承認欲求や自己顕示欲といったエゴイズムが動機なので、彼らは自分の流す情報が迷惑行為や違法行為として逮捕や訴訟にならない限り社会的な責任を負いません。一方で、新聞やテレビなどのマスメディアは自分たちが出す情報に社会的責任を負っています。もちろん、責任を負っていても誤った情報を出すことはありますが、事実が確認されれば彼らは間違ったことに対して社会的な責任を取ります。この違いは非常に重要な点です。
それにも関わらず、SNSなどのネット上の情報を鵜呑みにし、マスコミの流す情報こそ虚偽だとか、事実を捻じ曲げているという陰謀論ともいうべき考えに囚われるのは賢い市民のあり方と言えるでしょうか?
報道に社会的責任を負っているとはいえ、過去にマスメディアが間違った報道や虚偽の情報を流したり、為政者に阿ったり忖度したことがなかったわけではありません。
それだけに報道や情報を精査することは不可欠ですが、それはSNSやネット上の情報についても同様です。
スマホが普及し、生活する上で欠かせないツールとなった今、スマホ上でやり取りするSNSなどの情報がテレビや新聞で読む情報よりも身近に感じるのでしょう。ましてや友人などから伝え聞いた情報はさらに信頼できると思ってしまうのかもしれません。しかし、それは錯覚であり、非常に危険だと言えるでしょう。(知人や友人、家族を通じてという構図は、詐欺にも使われる手口です。)
その情報の内容の真偽とともに、誰が責任を負っているのかを考えるべきでしょう。マスメディアの報道を疑ってかかるのは悪いことではありませんが、一方でネット上の無責任な真偽不明な情報を盲目的に信用することの危うさを認識すべきです。何の社会的責任を負っていない発信者の情報を鵜呑みにするのは、浅はかというよりも、単なる馬鹿のやることです。
※1:米大統領選の“投票日前日”にディープフェイク急増か AI専門家が警鐘 その狙いは?ターゲットとなる州は?(TBS)
https://www.youtube.com/watch?v=hn0usBwQeOs
※2:トランプ氏 テイラー・スウィフトさんから支持受けたと偽映像投稿 ファンが非難(ANN)
https://m.youtube.com/watch?v=sOncqsI3XeA
※3:異例の都知事選...フェイクも(日テレ)
https://www.ntv.co.jp/zero/kikikomi/articles/bfpgaksgltfez7jl.html
※4:トランプ氏のコメ関税700%発言、農相「理解不能」(日本経済新聞)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA0326C0T00C25A4000000/
※5:輸入米関税「778%」から「280%」に 農水省が見解修正(日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXNASFS11037_U3A111C1EA2000/
※6:SNSなど拡散された偽情報・誤情報「正しいと思う」に半数の人(NHK)
https://www3.nhk.or.jp/news/special/article/society20240416-02.html
※7:インスタ映え」に若者が超熱中する社会的背景 なぜ人はパンケーキ写真を投稿するのか(東洋経済)
https://toyokeizai.net/articles/-/313360
以上
記事の無断転載を禁じます。
————————————————
事業運営上の様々なコンサルタント(業績改善、事業分析、戦略作成支援、人材教育など)やメンター・プログラム、心理カウンセリングなどを行っています。 お気軽にご相談ください。
エス・アイ・エム
代表コンサルタント(認定心理カウンセラー)
神奈川県川崎市川崎区京町2-3-1-503
050-5881-8006
Email: y.sato.sim@gmail.com
http://simconsul.web.fc2.com/