泥棒に隷属する愚かさ
エス・アイ・エム
代表コンサルタント(認定心理カウンセラー)
佐藤 義規
「嘘つきは泥棒の始まり」
誰でも子供の頃に、親や教師、友達などからそう言われてたしなめられたことがあるのではないでしょうか?「嘘つきは泥棒の始まり」の由来は不明ですが、1893年に発行された『古今俚諺類聚』にはすでに記載されていましたので、かなり昔から使用されていた諺のようです。
日本だけでなく海外でも同様のことわざが数多く使われており、国や人種とは関係ないようです。嘘は、基本的に自分の欲得・利益のために不正な言動をすることであり、嘘による成功体験が積み重なることで、まじめな言動をすることが馬鹿らしくなります。自分の欲得・利益を満たすことが優先され、いずれ詐欺や窃盗などの罪を犯すことにも抵抗感がなくなってしまうということでしょう。
現在の社会制度の多くは性善説に基づいて設計されています。それ故、時々「システムの穴をみつけて悪用(ハック)する人間)」が現れます。ハッカーたちは「性善説を信じているやつらはバカ」と嘲笑し、自己利益を増大させます。その際、制度の穴をみつけて自己利益を増やすハッカーを「スマートだ」「かっこいい」と言って持ち上げる人たちがいますが、これほど愚かなことはありません。極端な例(犯罪)ですが、先日、24時間営業の無人店舗での万引き事件の報道がありました。(※1)無人店舗での万引きは決して少なくありません。コスト(人件費)削減を図るべく無人店舗にしたのに、防犯カメラなどの万引き対策にコストがかかるという矛盾。店番を置いたり、防犯カメラを設置したりすれば、そのコストは商品価格に転嫁されます。結果的に商品は値上がりし、顧客がそのコストのツケを払うことになるわけです。一般のスーパーにおいても、万引き対策に防犯カメラだけでなく、外部のコンサルタントや警備会社に依頼しているケースは少なくありません。これらコストはすべて顧客が購入する商品価格に転嫁されます。制度の穴をみつけて自己利益を増やす人間を「スマートだ」「かっこいい」とか賞賛する人も彼らに盗まれているということを理解すべきです。もし、盗まれる側が嫌だから「オレも今日からハッカーになる」と人々が我先に制度の穴を探すようになると、今度は社会制度をすべて性悪説で作り直さなければならなくなります。それは、何の価値も生み出さない「防犯コスト」を全員が負担する生産性の低い、不快な社会を産み出すだけでしょう。
先日、和歌山県の資産家で“紀州のドン・ファン”と呼ばれた会社社長に覚醒剤を摂取させて殺害したとして、28歳の元妻が殺人などの罪に問われた裁判において、和歌山地方裁判所が無罪を言い渡した(※2)というニュースがありました。この事件については、判決後も憶測も含めた様々な意見がマスコミやネット上で交わされています。民事裁判であれば結論は変わったかもしれません。しかし今回の裁判では、「疑わしきは罰せず」という刑事裁判のルールが正しく実行されたということでしょう。直接証拠が無い中で、検察側が状況証拠を積み重ねていったものの、結果的に犯罪を立証できるところまでは至らなかったように見えます。今後控訴となる可能性もありますが、犯罪が立証されなかった以上、現時点でこの元妻は無罪であり、ネットも含めて公的な場で彼女が批判・糾弾されるのはどうかと思います。
しかし、もしこの元妻が実は有罪であり、隣人であったり、個人的に何らかの社会的つながりがあったとしたらどう接するでしょうか?よほどの友人関係や長い付き合いがあった場合は違うかもしれませんが、普通は距離を置くでしょう。さらに、彼女の証言に嘘があったことが明確になった場合はどうでしょう?また、もしも彼女が政治家だったらとしたらどうでしょう?
彼女に自分の生命や安全、財産や子供たちの未来を委ねたいと思うでしょうか?
多くの国民が、不倫した芸能人や一般人の不適切な行いや犯罪行為に対しては過剰なほどのバッシングを行うにも関わらず、不正や嘘を重ねた政治家に対しては異常なほど寛容です。また、民主主義に限界を感じてなのか、強力なリーダーシップを願ってのことなのか、そうした政治家を支持するだけでなく、専制や独裁を願うような人たちまで出てきます。しかし、平気で噓をつくような人や犯罪行為を行った人たちに自分の生命や安全、財産や子供たちの未来を委ねられるでしょうか?嘘を重ねている政治家や政党に政治を任せるというのはそういうことです。嘘だけでなく、現実に国民の血税を盗む泥棒政治家がいることもすでに明らかです。彼らによって生じた損失は国民がそのツケを払うことになるということを忘れてはいけません。
英国では、政治家の嘘は大きな罪です。(※3)英ウェールズでは、政治家の「嘘」を罰する法律まで可決されています。(※4)それに対して日本はどうでしょう?あまりにも政治家に寛容過ぎないでしょうか?
もっとも、アメリカにおいても次期大統領(※5)や次期政権の政府効率化省(DOGE)のトップ(※6)が平気で嘘やフェイク画像をまき散らしているようなので、どうやら日本に限ったことではないようです。ただし、同じアジアの隣国、韓国では少々事情が異なっているようで、韓国民の姿勢には見習う点があるかもしれません。(※7)
民主政(デモクラシー)とは、人民が主権を持ち、人民の意思に基づいて政治が行われる政治形態ですが、その欠点は無数にあります。しかし、その人民の多くが民主政は他の制度よりましな制度であることを忘れてしまうようです。たしかに民主政は不完全な制度です。それは、有権者の多くが市民的に成熟していないと正しく機能しないからです。市民の過半数が「子ども」のままでは民主政は破綻します。だからこそ、民主政の中での憲法や法律は市民が大人になるように示唆しているのです。王政も貴族政も専政も市民には「バカのまま、子供のまま」でいることを望みます。日本国民の多くが「バカのまま」でいることを自ら望んでいるとは決して思いたくありませんが、現実は果たしてどうなのでしょう?
※1:犯罪の瞬間を防犯カメラが捉える/無人店舗で万引き被害/警察が窃盗事件として捜査(琉球朝日放送)
https://www.qab.co.jp/news/20241210234255.html
※2:“紀州のドン・ファン”元妻に無罪判決 4つの争点の判断は?(NHK)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20241212/k10014665751000.html
※3:「国民をなめきっている」日本の国会議員 虚偽答弁の重さ、元首相が失職するかもしれない英国と比べてみた(東京新聞)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/240034
※4:英ウェールズ、政治家の「嘘」を罰する法律を可決(IDEAS FOR GOOD)
https://ideasforgood.jp/2024/09/06/compassion-in-politics/
※5:誤情報の沼で溺れるトランプ氏、自ら混沌を作り出した面も(CNN)
https://www.cnn.co.jp/tech/35223927.html
※6:イーロン・マスク氏、ハリス副大統領が共産主義の制服を着た偽画像を投稿(CNN)
https://www.cnn.co.jp/tech/35223440.html
※7:非常戒厳に「信じられない」思いのソウル市民ら、どんな行動に出たのか(BBC記者報告)
https://www.bbc.com/japanese/articles/ce3lzxde10lo
以上
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