米国税務の基礎 日本に事務所を開設したら課税される?

CDH会計事務所
米国公認会計士
武藤 登 氏

その答えは2003 年 11 月 6 日に米国ワシントンにて、所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止を目的に締結された日米新租税条約にあります。この租税条約に規定されている内容は、原則として米国および日本の税法に優先して適用されます。詳しくは下記の米国財務省の解説書、日米租税条約のテクニカル・エクスプラネーションをご参照ください。

https://www.irs.gov/pub/irs-trty/japante04.pdf

まず第7条では一方の締約国の企業の利益に対してはその企業が他方の締約国内ある恒久的施設を通じてその他方の締約国内において事業を行わない限り、その一方の締約国に於いてのみ租税を課することが出来るとしています。

<恒久的施設課税の原則>

  • 企業が源泉地国に恒久的施設を有している場合はその源泉地国で課税出来る

  • つまり米国の企業が日本に恒久的施設を持って事業を行わない限り日本では課税されない

  • 事業には自由職業その他の独立の性格を有する活動を含む

<帰属主義の原則>

  • 租税条約が締結されている国の企業が日本で課税される事業所得は恒久施設で発生した所得に限られる帰属主義を採用

  • 租税条約の締結されていない国は総合主義(全所得主義)

<恒久的施設>

恒久的施設とは第5条で、事業を行う一定の場所であって企業がその事業の全部または一部を行っている場所をいう、と規定されています。

1.恒久的施設には特に次のものを含む。

  • 事業の管理の場所、支店、事務所、工場、作業場

  • 鉱山、石油または天然ガスの抗井、採石場その他天然資源を採取する場所

2.建設工事現場、建設若しくは据付けの工事又は天然資源の探査のために使用される設備、掘削機器若しくは掘削船については、これらの工事現場、工事又は探査が12か月を超える期間存続する場合には恒久的施設を構成するものとする。

3.恒久的施設には次のものは含まないものとする。

  • 企業に属する物品又は商品を保管、展示又は引き渡しのためのみに施設を使用する

  • 企業に属する物品又は商品の在庫を保管、展示又は引き渡しのためのみに保有する

  • 企業に属する物品又は商品の在庫を他の企業による加工のためにのみ保有する

  • 企業のために物品若しくは商品を購入し又は情報を収集することのみを目的として、事業を行う一定の場所を保有する

  • 企業のためにその他の準備又は補助的な性格の活動を行うことのみを目的として、事業を行う一定の場所を保有する

それでは米国企業の日本駐在員の事務所は事業と見做されるのでしょうか?

  • 米国の企業が将来日本への進出するために、日本で市場の情報を収集したり、その他の準備的な活動を行うことのみを目的として事業を行う、一定の場所を所有することは恒久的施設には含まれない

  • 従って日本の恒久的施設を所有しない外国法人は原則として日本国内において行う事業からの所得について法人税の課税は発生しない

但し、他の企業のために情報収集した場合、その報酬は課税対象となります。

<参考>

日本の国内法でも法人税法施行令第185条第2項で下記のものは恒久的施設に含まれないとされています。

  • 外国法人がその資産を購入する業務のために使用する一定の場所

  • 外国法人がその資産を保管するためにのみ使用する一定の場所

  • 外国法人が広告、宣伝、情報の提供尾、市場調査、基礎的研究その他の事業の遂行にとって補助的な機能を有する事業場の活動を行うためにのみ使用する一定の場所

また、法人税法第141条でも日本の恒久的施設を所有しない外国法人は原則として日本国内において行う事業からの所得について法人税の課税は発生しないとされています。

では逆に日本在住の方がオンラインビジネスで米国に倉庫を所有し、そこから発送している場合はどうでしょうか?

  • 日本の会社がオンラインショッピングで注文を受け、その発送のために米国に商品を保管する倉庫を保有していても恒久的施設とは見做されず、米国では事業として課税はされない

この記事は租税条約の基本を分かりやすく纏めたものです。日本の国内法などに関しては必ず日本の税理士、会計士にご相談ください。

以上

記事の無断転載を禁じます。

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