マイナンバーカードは家畜証明書

エス・アイ・エム
代表コンサルタント(心理カウンセラー)
佐藤 義規 氏

マイナンバーカードの駆け込み申し込みが殺到しているという報道がされています。(※1)

人気俳優やお笑い芸人、プロ野球監督などが登場するCMで、マイナポイント2万円付与という誘い文句に乗ってしまう人が多いのでしょう。役所の窓口だけでなく、携帯電話ショップなどでも手続きの代行が行われていることなども影響しているようです。(NTTドコモだけで店舗以外に2,000ヶ所の出張所設置)当然、代行手数料が携帯電話ショップなどに支払われますので、広告宣伝費、登録者に支払うマイナポイント2万円など、報道された2兆円を超える費用(※2)以外にも多額の税金が投入されていることになります。地方自治体でも専用窓口を用意していますので、その費用も当然税金で賄われます。一般市民には目に見えるメリットが感じられないマイナンバーカードの普及に、どれだけ税金を投入するのでしょう。

マイナンバー制度以前、国民総背番号制は世論の強い反対を受け、何度も廃案となった歴史があります。しかし、今やマイナンバーは全ての国民に割り振られており、多くの人が気付かないうちに国民総背番号制を実施する下地が完成しているのです。当初マイナンバーの利用は、税、社会保障、災害分野に限定するということだったので、大きな反対もなくスムーズに(水面下で)導入できたともいえます。「マイナンバー」や「マイナちゃん」という親しみやすいイメージを作り出したことも要因の一つでしょう。しかし、マイナンバー制度導入時こそ利用分野の限定がされていましたが、その後は、利用分野の大幅な拡大が検討されています。政府は、マイナンバーに、健康保険証、自動車検査証、運転免許証、キャッシュカード、クレジットカード等の機能を盛り込むことを検討していると明らかにしています。実現すれば、マイナンバーは国民総背番号制と同じものになります。また、政府はマイナンバーの分散管理を行うと言っていますが、一元管理の方が効率的であることは明らかです。いずれ法改正を行い、分散管理から一元管理に変更されることになるでしょう。そして国が全ての国民の個人情報を握ることとなり、世論の猛反発を受けて繰り返し廃案となった国民総背番号制が完成することは間違いありません。

マイナンバーですべての情報が一元化されることは、国民にとっても利便性というメリットがあることは事実です。一方で、国家権力が国民の個人情報を握ること以外にも、個人情報の漏洩や詐欺などのリスクも増大します。事実、スマホアプリを使って高齢者等のマイナポイントをプリペイドカードで申し込み搾取できることが確認されています(※3)し、取り扱う側の医療機関などでも多くの不具合が確認されています。(※4)

他にも色々とおかしなことが数多くあることが指摘(※5)されていますが、政府はまともに説明をしようとしません。こうした政府の姿勢に問題があるのは間違いありませんが、そもそも国民の姿勢と国との関係性に大きな問題があるといえるでしょう。

1991年にソヴィエト連邦から独立して、今やIT先進国となったエストニアの事例(※6)を参考にすると、日本政府のマイナンバー制度やIT推進に関する問題点が見えてきます。総務省もエストニアのeIDカードが日本におけるマイナンバーカードに相当するとして、参考にしています。(※7)

ソ連時代にICTの開発センターがエストニアにあったとはいえ、もともとエストニアは製造業や農業・林業が基幹産業でした。しかし、今や世界で最も進んだICT利用環境と電子政府構築に成功しています。エストニア政府は、インターネット利用は、電気や水道などと同様に国民の基本的な権利と位置づけ、公共施設はもちろんのこと、喫茶店やマーケット、ガソリンスタンドなどでも無線LANを利用できるようにしました。eIDカードという身分証明書を15歳以上のほとんどの市民が所持し、行政が提供する1,700もの電子政府サービスをポータルサイト上でワンストップで提供しているだけでなく、銀行や保険会社など民間のサービスでも広く利用されています。さらには、スマートホンのSIMカード(携帯電話に装着するICカード)に必要な情報を登録し、電子署名や電子認証を可能にしており、モバイル環境でもこうしたサービスが利用できるそうです。

日本では「マイナンバー制度で政府による国民の監視が強まる」と心配する人が少なくありませんが、エストニアではそうした心配をする人はほとんどいません。理由は、国民ID番号を利用することに長い歴史があることに加え、行政の情報公開が進んでいるからです。政府が運用するシステムは、法律によってその目的と用途に関する情報公開が義務付けられており、国民が知らない間に勝手に作ることはできません。また、情報公開により、政治家も不正行為ができないようになっています。すべての企業献金が禁止されており、政治家の収入や党に対する個人の献金額も公開されているので、選挙で多額の費用を使ったことが知られると、その金の出所をマスコミに追及されることになります。海外視察の際も、経費を何にいくら使ったか、本当に必要な支出だったのかを説明しなければなりません。少しでも不透明なことがあると国民もメディアも厳しく追及します。エストニアではプレスフリーダム(報道の自由)という考え方が徹底しており、いかなる人もマスコミに対し圧力をかけることはできません。政府が作成した文書はWeb上で公開することが法律で決められています。すべての国民はネット上で政府が作成している文書を知ることができ、閲覧請求もできます。国民に公開されない機密文書もありますが、その場合も機密文書とした理由を政府が開示しなければならない仕組みになっています。

このように、エストニアでは、徹底した情報公開の文化が根付いており、国民は政府を信頼し、エストニアの電子政府システムを安心して利用することができるようになっているわけです。日本のように、文書を隠蔽したり、破棄したり、虚偽の答弁を行ったり、マスコミに圧力を加えたりすることはできないのです。エストニアと状況のまったく異なる日本で、マイナンバーを導入する事は非常に危険です。現状の日本において、政府に盲従し、何の疑問も持たずマイナンバーカードを作成し、個人情報を国に預けるということは、家畜として登録するようなものです。政治家や行政がそもそも国民の信頼を損なっている上に、マスコミも本来の役割を十分に果たせていません。それにもかかわらず、2万円に釣られ、言われるがままにただ従うという国民の姿勢は、いずれ手痛いしっぺ返しを喰らうことになるでしょう。

※1︰マイナカード「2万円分」今月末まで…駆け込み申請(テレ朝NEWS)

 https://news.tv-asahi.co.jp/news_economy/articles/000279372.html

※2︰費用対効果が悪すぎるマイナンバー制度事業…国は検証不十分(東京新聞)

 https://www.tokyo-np.co.jp/article/159937

※3:マイナポイント…他人名義のキャッシュレス決済にも付与OKの謎(FRIDAYデジタル) 

 https://news.yahoo.co.jp/articles/7b0af5a28213948dfaf34d07eb7931f5ff7e0687

※4:マイナ保険証は本当に義務化して大丈夫?導入医療機関の4割で不具合(東京新聞)

 https://www.tokyo-np.co.jp/article/217138

※5:マイナンバーカード、不思議なケースに凝縮する不作為(日本経済新聞) 

 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB141QQ0U2A111C2000000/

※6:未来型国家エストニアの挑戦【新版】電子政府がひらく世界(Amazon)

 https://amzn.asia/d/0PoWdGi

※7:エストニアの電子証明書等について(総務省 情報流通行政局 デジタル企業行動室)

 https://www.soumu.go.jp/main_content/000731090.pdf

以上

記事の無断転載を禁じます。

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