永住権放棄時の海外口座対応:FATCAとFBARの基本

CDH会計事務所
国際税務コンサルタント
ハラ 基江

米国の永住権を放棄する際、特に重要なのが、米国外に保有する銀行口座や投資口座に関連する税務義務です。米国には、海外資産を報告する義務があり、その代表的な規制がFATCA(外国口座税務コンプライアンス法)とFBAR(外国銀行金融口座報告)です。これらの規制は、米国市民や永住権保持者が海外で得た収入や資産を正確に報告し、税金逃れを防ぐことを目的としています。特に、永住権を放棄する前にこれらの規制を遵守しておくことが非常に重要であり、違反すると出国税(Exit Tax)のリスクが高まる可能性があります。本記事では、FATCAとFBARの遵守方法と、それらの違いについて解説します。 

FATCAとは?

FATCA(Foreign Account Tax Compliance Act)は2010年に施行された法律で、米国市民や永住権保持者が、海外に保有する金融資産をIRS(米国国税庁)に報告することを義務付けています。この規制では銀行口座や投資口座、保険商品など幅広い金融資産が対象となり、報告が漏れた場合、罰金やペナルティが発生する可能性があります。

FATCAの報告義務

FATCAに基づく報告は、海外の金融資産が一定の金額を超える場合に必要です。この基準額は、個別申告者(米国居住者の場合)では50,000ドル、共同申告者では100,000ドルです。報告は、税務申告の一部としてForm 8938を使用して行います。銀行口座、証券口座、保険契約、信託口座に加え、信託で管理されている資産や、ヘッジファンドや有価証券など口座外で保有する投資も含まれます。自身の全ての資産を把握し、確認することが重要です。

FBARとは?

FBAR(Report of Foreign Bank and Financial Accounts)は、1970年に施行された銀行秘密法(Bank Secrecy Act)に基づく規制で、金融機関を利用したマネーロンダリングを防止することを目的としています。米国外に保有する金融資産が10,000ドルを超える場合、報告が必要となります。FBARの対象には、銀行口座、証券口座、保険契約、信託口座に加え、米国金融機関の海外支店に保有する口座や、署名権限を持つ口座も含まれます。報告はFinCEN(金融犯罪取締ネットワーク)に対して行い、Form FinCEN 114を電子的に提出します。この報告はForm 8938とは独立して提出する必要があります。 

FATCAとFBARの違い

FATCAとFBARはどちらも海外資産の報告義務がありますが、対象となる資産や報告の基準が異なるため、それぞれの申告要件をしっかり確認することが重要です。特に、報告対象は口座ごとの残高ではなく、すべての口座の合算残高である点にも注意が必要です。また、報告先も異なるため、対象資産によってはFATCAとFBARの両方で報告が必要になる場合があります。 

罰則とペナルティ

FATCAやFBARの報告を怠ると、罰金が課される可能性があります。FATCAの場合、報告に不備があると一件につき最大で10,000ドルの罰金が発生することがあります。FBARについても、故意ではない場合でも最大で10,000ドルの罰金が課されることがあり、もし故意に報告を怠ったと判断された場合は、罰金が口座残高の50%か100,000ドルのいずれか高い方に設定されることがあります。報告義務を複数年にわたって守らなかった場合、その年数分だけ罰金が積み重なる可能性もあるため、適切な対応が大切です。

出国税(Exit Tax)との関連

永住権保持者の中で出国税の対象となるのは、永住権を8年以上保有している「長期居住者」です。一般的に富裕層向けの税金と考えられがちですが、実際には資産や納税額が一定基準を超える方だけでなく、税法をしっかり遵守していない方にも影響を与えることがあります。FATCAやFBARの報告が適切に行われていない場合、出国税の計算に悪影響を及ぼす可能性があります。

そのため、永住権を放棄する前に、これらの報告義務がきちんと果たされているかどうかを確認することが非常に大切です。もし過去に報告を怠っていた、誤った情報を提出していた場合には、税務の専門家に相談し、適切なアドバイスを受けることをお勧めします。また、最終税務申告時には、全ての海外資産を含めてFATCAやFBARの報告義務を果たすことが、リスクを軽減する有効な方法の一つです

以上

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