永住権放棄前に確認したい5つの税務リスク
CDH会計事務所
国際税務コンサルタント
ハラ 基江
米国の永住権を放棄するという決断には、法的および税務上の大きな影響があります。特に税務リスクについては、事前にしっかりと理解し、適切な準備を行うことが不可欠です。本記事では、永住権を放棄する際に注意すべき5つの税務リスクと、その対策について解説します。
1.出国税(Exit Tax)のリスク
永住権を放棄する際にまず気をつけたいのがExit Tax(出国税)です。これは、米国市民権や(8年以上の)永住権を放棄する人にかかる税金です。一般的には富裕層向けの税金と思われがちですが、実際には、コンプライアンスをしっかり守っていないと誰にとっても大きなリスクとなる可能性があります。
出国税の適用条件:
純資産:放棄時の純資産が2,000,000ドル以上
年間所得税額:直近5年間の平均年間純所得税額が$190,000ドルを超える(2023年度)
税法遵守履歴:税務履歴に不備があり、直近5年間の連邦税務申告が不正確
出国税は、あなたが保有している資産をすべて売却したと仮定し、その売却益に対して課される税金です。つまり、実際には売却していなくても、あたかも売却したかのように課税されるのです。この税額は、永住権を放棄した年の税務申告(Form 8854、米国版の国外財産調書)で計算し、報告する必要があります。
対策:
まずはご自身の保有資産を見直し、必要に応じて整理することが大切です。出国税がどのように適用されるかをしっかり確認しましょう。
2.米国資産への継続的な課税リスク
米国内に資産を残したまま永住権を放棄する場合、これらの資産からの収入には引き続き米国で課税される可能性があります。特に、次のような資産には注意が必要です。
米国内の不動産:賃貸収入や売却益は、永住権を放棄して非居住者になった後も米国で課税されます。不動産を売却する際には、FIRPTA(外国人不動産投資税法)に基づき、売却価格の一部が源泉徴収される場合があります。
株式や投資信託:米国内に保有している株式や投資信託の配当も、引き続き米国で課税対象となります。
対策:
米国内に資産を残す場合、金融機関と連携して収入に対する適切な源泉徴収が行われるよう管理することが大切です。租税条約を活用し税負担を軽減できるかどうかも確認しておきましょう。
3.遺産税や贈与税のリスク
米国では、非居住者が保有する米国内の資産に対しても、特定の条件下で連邦や州レベルの遺産税や贈与税が課される可能性があります。税額には免除額(年次贈与税控除や生涯免除額)がありますが、この免除額は2025年末で期限切れとなり、2026年以降は以前の水準に戻る見込みです。今後の税制変更を考慮し、ご家族が資産を受け取る際の負担を軽減するために計画を立てることが大切です。
遺産税:非居住者が残した米国内の資産を相続する場合、特に不動産や金融資産に対して遺産税がかかることがあります。ただし、日米相続税条約の適用で、多額な資産でない限り全額控除される可能性が高いです。
贈与税:非居住者が米国内の資産を贈与する際にも、贈与税が発生する場合があります。特定の税務規制があるため、事前の準備が重要です。
対策:
信託などを活用した資産管理の方法を検討するのが効果的です。専門家の助言を受けながら、適切な計画を立て、ご自身に合ったオプションが選べるよう心がけましょう。
4.退職口座や年金資産の税務リスク
米国で積み立てた401(k)やIRAなどの退職口座についても、永住権を放棄した後は非居住者として特定の税務規制が適用されます。これらの口座から資金を引き出す際には所得税がかかりますが、非居住者の場合は追加の源泉徴収が行われる可能性があります。
対策:
退職口座からの資金引き出しのタイミングや方法をしっかりと計画することが大切です。日本との社会保障協定を活用して、二重課税を回避できるかどうか確認しておくことも重要です。
5.税務調査や追徴課税のリスク
過去の税務申告に不備があった場合、永住権を放棄した後でもIRSによる税務調査や追加課税のリスクが残ります。特に、米国外の資産を申告していなかった場合や、FATCA(外国口座税務コンプライアンス法)やFBAR(外国銀行金融口座報告)の報告義務、また家族経営の会社に関する持ち分の報告義務(例:Form 5471の提出義務)を守っていない場合、罰金や追加の税金が発生する可能性があります。
対策:
過去5年間の税務申告を確認し、漏れや不備がないか見直すことが重要です。必要に応じて修正申告を行い、罰金や追加課税のリスクを回避しましょう。
まとめ
米国永住権を放棄する際には、税務リスクを慎重に検討することが不可欠です。時間的余裕をもって資産の整理や税務申告の確認を行い、税務専門家のアドバイスを受けながら安心して手続きを進められるよう、万全の対策を立てましょう。
以上
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