アメリカ在住日本人のための50代からのプレ終活ガイド

CDH会計事務所
国際税務コンサルタント
ハラー 基江 氏

人生100年時代と呼ばれる今、50代はちょうど折り返し地点に立っていると言えます。この時期は、まだ体力や判断力があり、健康寿命を意識した生活や将来のお金の計画を立てる絶好のタイミング。老後に向けての準備を開始するための「プレ終活・人生再設計」を50代から始めることは、今後の人生をより良いものにするための大きなステップとなり得ます。本記事では、アメリカに住む日本人が50代で始めるべき「プレ終活・人生再設計」のポイントについてお話しします。

健康寿命を意識した生活設計

まず、健康寿命について考えることが重要です。健康寿命とは、単に生きる年数ではなく、健康で自立した生活ができる期間を指します。2019年の日本人の平均寿命は男性81.41歳、女性87.45歳、一方で健康寿命は男性72.68歳、女性75.38歳となっています。寿命と健康寿命とはそれぞれ約9年、約12年の差があります。アメリカに住む日本人の場合、健康寿命を念頭にアメリカの医療システムと日本の医療制度を比較し、どちらで老後を過ごすか考えることも含めて、今から健康管理に取り組むべきです。

健康管理:定期的な運動やバランスの取れた食生活が健康寿命を延ばす鍵となります。健康リスクが高まる50代は生活習慣を見直す絶好のタイミングです。アメリカの医療制度にはPrimary Physician制度(かかりつけ医制度)がしっかり整備されており、定期的な健康管理を行う上で非常に有用です。Primary Physicianを通じて定期的な検診やワクチン接種を受けることができますし、特に心臓病や糖尿病、癌の早期発見に注力しています。日本と比較して予防医療や口腔ケアにも力を入れているため、引き続きしっかりと定期検診を受け、健康寿命を延ばすための習慣を構築しましょう。 

医療制度の確認:アメリカの医療費は非常に高額ですが、65歳以降はMedicare(メディケア)によってある程度カバーされます。しかし、Medicareはすべての医療費をカバーするわけではないため、補完保険も考慮にいれる必要があります。 米国では長期介護保険が必要となるケースが多く、これに備えておくことも安心につながります。日本に戻ることを検討している場合、日本の国民健康保険や介護制度の違いも把握し、どちらが自分にとって最適かを早めに考えましょう。

お金と税金面での計画

50代は、老後の資金計画や税金対策を真剣に考え始めるべき時期です。日本と違いまだ働く期間が残されているため、今のうちに老後資金の貯蓄を増やし、将来の生活に備えることができます。

貯蓄計画:アメリカでの老後生活を考える場合、401(k)やIRAなどのリタイヤメントプランを利用することが非常に有効です。これらのプランには税制上の優遇があり、老後資金対策になります。50代はリタイアメント貯蓄を強化するラストスパートとして非常に重要な時期です。特に、「キャッチアップ拠出」という特別な制度があり、50代以上の方は通常の拠出限度額に加えて追加の拠出を行うことができます。これにより老後資金を加速的に増やすことができるため、この制度を最大限に活用することは対策になります。IRAもキャッチアップ拠出が可能です。50代はまだ現役世代です。ファイナンシャルアドバイザーなど専門家からのアドバイスを受けるなどし、リタイアに向けて適切な投資と計画で老後の安心を確保しましょう。

税金対策:税金対策も見逃せません。特にアメリカに住む日本人にとっては、アメリカと日本の二国間の税金制度や協定(日米租税条約や日米年金. 日米社会保障協定など)を理解することが必要です。IRAや401(k)の分配をどのように引き出すか、社会保障給付をどう受け取るか、さらには米国内の不動産投資をどう扱うかによって税金の影響が大きく変わりますので、専門家のアドバイスを受けることを推奨します。

 401(k)やIRAの分配は、一般的に59½歳までは早期引き出しとしてペナルティが発生しますが、その後は通常の所得として課税されます。50代では、このタイミングを念頭に置き、分配をどのように計画的に行うかが重要です。75歳以降は、Required Minimum Distribution(RMD:最低必要分配)が課せられるため、RMDの計算と税金影響を見越したプランを立てることが必要です。 Roth IRAでは分配時に非課税ですので課税の影響を軽減したい場合に有効な手段です(*2024年現在50歳の人の場合、「SECURE 2.0 Act」によって2033年にRMDの年齢が75歳に引き上げられることが決定)。  

相続・遺言書の準備:50代からは相続や遺産計画についても考える時期です。米国と日本の法律は異なりますので、両国に資産がある場合は複雑な手続きが必要となる可能性があります。米国での遺言書作成をする際は、専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。日本の相続税法や米国のエステートタックスの適用範囲についても理解し、両国での税務対策を考えることが重要です。

また、リビングトラスト(生前信託)の作成も検討すべきです。 リビングトラストは、その大きな利点はプロベート(検認手続き)を回避できる点にあります。プロベートを避けることで、コストや時間を削減し、相続手続き全体の効率を高めることができ、資産分配の柔軟性を確保することが可能です。 

セカンドライフの計画を立てる絶好のタイミング

50代は、まだ判断力が高く、体力も十分にあるため、老後に向けたセカンドライフの計画を立てやすい時期です。今のうちにしっかりと計画を立て、老後の生活をより充実させましょう。

50代は新しいことにチャレンジしやすい時期でもあります。例えば、リタイア後に再び働くことを考えているならば、新たなスキルを習得することも選択肢の一つです。また、趣味を広げたり地域活動やボランティアに参加したりすることで、社会とのつながりを持ち続け、充実した日々を過ごすことが可能です。

そして、人生100年時代の折り返し地点ともいえるこの時期に一度、自分の生活設計を見直し、これからの人生で何を重視するのかを考え直すことも有意義です。自分の人生において何が重要かを再確認し、無駄なものを省き、シンプルで充実した生活を送る準備をするプレ終活時期として絶好のタイミングです。

 おわりに

50代から始めるプレ終活・人生再設計は、まだまだ元気で判断力もある今だからこそ、計画的に取り組むことができるものです。健康寿命を意識した生活設計や、老後の貯蓄・税金対策、そしてセカンドライフの計画を早めに立てることで、これからの人生をより豊かにすることができると思います。アメリカに住む日本人として、両国の制度や生活費用の違いを理解し、最適なプレ終活をスタートしてください。

参考文献

厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイトhttps://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/hale/h-01-002.html 

以上

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