お試しで日本に住みたい!グリーンカード保持者の制約と義務
CDH会計事務所
国際税務コンサルタント
ハラー 基江 氏
クロスボーダー人であるグリーンカード保持者の黒須花子さんは、アメリカでの20年間のキャリアを一時的に中断して、日本での生活を試すことを決意しました。彼女は日本での就職活動に成功し、一つの企業からオファーを受け取りました。これが彼女の日本での新しい生活をスタートさせるきっかけとなります。花子さんはアメリカの自宅を賃貸することにして、2年間有効のRe-entry Permitを取得し日本へ帰国します。グリーンカードを保持したまま日本に帰国したクロスボーダー人の花子さんにはどのような制約や義務があるのでしょう?
日本での花子さんの生活の展開
日本に帰国した花子さんは、新しい職場でバリバリと働き始めます。もともと花子さんには日本に銀行口座、証券口座、生命保険口座がありました。オファーをもらった企業からの給与はこの銀行口座に振り込まれるようにします。花子さんの仕事は楽しく充実しています。
1年後、アメリカにいたころから温めていたビジネスアイデアを花子さんは友人に話します。その友人はそのアイデアが素晴らしいと言い、自分も手伝いたいと言いました。花子さんは自分が資金を100%出資して株式会社を設立する決意をします。会社名義の銀行口座も開設しました。日本は副業も解禁されてそれが後押しになりました。サラリーウーマンとしての仕事と両立させ、友人と試行錯誤しながらの在庫を持たないビジネスは、利益を生み出していきます。日本はスタートアップ支援が活発化しています。花子さんは、更なる資金調達が必要だと思い、このビジネスに本格的に取り組もうと思いました。
2年後、花子さんはサラリーウーマンの会社を退職し、様々なピッチ場所に出ます。そして、資金調達に成功します。アメリカを離れてから2年以上が経ち、猛烈に夢に向かって生活していた花子さんのRe-entry Permitは既に失効してしまいました。
花子さんの制約と義務とは
「グリーンカード」とは、正式には「United States Permanent Resident Card」と呼ばれ、アメリカ合衆国に永住権を持っている外国人を識別する証明書です。このカード自体が緑色をしていることから、一般的に「グリーンカード」と呼ばれています。日本国籍と米国のグリーンカードを持つクロスボーダー人である花子さんは、一定の条件下で、アメリカ合衆国内で永住する権利を持ち、ほとんどの職種においてアメリカで働くことができます。花子さんは社会保障番号を取得し、公的なサービスやプログラムにアクセスできます。一定の期間、グリーンカードを保持し特定の条件を満たすことで、アメリカ市民権を申請することが可能にもなります。
グリーンカードを持っていると多くの権利を享受できますが、それと同時に留意しなければならない義務や制約も伴います。米国のグリーンカード保持者としての花子さんの税務と移動・滞在面の課題や、必要なIRS(米国内国歳入庁)フォームについての簡単なガイドラインを以下に説明します。
▶税務面の義務
1.全世界の所得の報告
アメリカを離れて別の国に住んでいても、グリーンカード保持者はアメリカ税法上の居住者とし見なされます。グリーンカード保持者はである花子さんは、米国の税法に基づき、全世界で得た所得を米国税務当局(IRS)に報告する義務があります。
一方で、Eビザ、Hビザ、Lビザなどを保持している日本人がアメリカを離れ、日本に戻る場合、税法上は「非居住者」と見なされることが一般的です。非居住者となった場合、基本的にアメリカでの所得がなければ、アメリカでの税務報告および課税の対象から除外されます。つまり、アメリカを離れて日本で収入を得ても、その収入をアメリカのIRSに報告する必要は通常ありません。
2.必要なIRSフォーム
日本に帰った花子さんですが、引き続きアメリカの税務申告を行います。花子さんは以下の申告が対象になる可能性があります。
Form 1040: 米国の居住者としての一般的な個人所得税申告書
Form 2555: 米国外での所得に対して免税措置を受けるための申告書(米国外での所得および家賃など)
Form 1116: 米国外で支払った所得税のクレジットを申請するための申告書
Form 5471: 米国市民/居住者が米国外の法人を所有している場合に、その法人の活動と所得に関する情報を報告
Form 8938: 特定の米国外の金融資産について報告(FBARと異なり、これはIRSへの報告)
FBAR (FinCEN Form 114): 米国外の金融機関の口座を報告(口座の最高残高が10,000ドルを超える場合)
▶移動・滞在面の課題
1.Re-entry Permitの失効
花子さんは、今後もアメリカの永住権を維持する意向ですので、アメリカを離れる前にReentry Permitを取得しました。この許可は通常2年間有効で、更新したい場合、花子さんがアメリカを一時的に離れている理由を説明することで更新が可能です。この更新は、アメリカ国内で行います。しかし、日本に引っ越してから数年間、花子さんは夢に向かって仕事を続け、Reentry Permitが切れてしまったことを忘れてしまいました。Reentry Permitが失効していると、米国への再入国や永住権の維持が困難になる可能性があります。花子さんは対策をとらなくてはなりません。
2.グリーンカードの放棄または剥奪
長い間米国を離れていると、アメリカへの帰国時にグリーンカードが剥奪されるリスクがあります。花子さんはReentry Permitを切れていることに気づき、またアメリカに残してある賃貸不動産の管理のために渡米したいと思いました。その空港入国の際にグリーンカードで入国をしようとしたとき剥奪される可能性を考えると花子さんは渡航前に移民法弁護士へ相談することが望ましいでしょう。
3.出国税(Exit Tax)
前述の通り、花子さんがReentry Permitの更新をせずこのまま日本へ住み続け、ある時点でアメリカへ入国するときには、グリーンカードを剥奪されるリスクがある可能性があります。これにより花子さんがグリーンカードを返却する場合、アメリカの法律では一定の条件を満たすグリーンカード返却者に対して出国税(Exit Tax)が課されます。花子さんの場合、彼女の資産や所得が特定の基準を超えていなければ出国税の対象とはなりませんが、これには十分な注意が必要です
今後の花子さんへのアドバイス
花子さん自身の所得、将来の計画、家族の状況などにより、最適な選択が異なります。専門家とコミュニケーションを密にし、正確な情報に基づいて判断を下すことが非常に重要です。
税務専門家とのコンサルテーション:
複雑な税務申告や、国際税務に関しては専門家としっかりとコンサルティングを行うことが大切です。日本で株式会社を設立し、株式保有率が多い花子さんの場合は、特に重要です。
移民弁護士とのコンサルテーション:
永住権に関する事項、特に、長期の海外滞在については、移民法の専門家に相談することをお勧めします。
花子さんのビジネスやキャリアにとって素晴らしい進展がありますが、花子さんのようにグリーンカードを保持したまま日本の生活をお試し期間という気持ちで日本に帰国しようと思っているクロスボーダー人は、日本へ帰ってもアメリカとのつながりが継続していることを意識し、クロスボーダー人としての計画と管理、専門家との相談の機会を持つことが極めて重要となります。
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以上
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