長生きリスクへの備え方:アメリカに住む日本人女性の税金対策
CDH会計事務所
国際税務コンサルタント
ハラー 基江 氏
現代の医療技術と健康的なライフスタイルのおかげで、多くの人がかつて考えられたよりも長生きしています。特に女性は男性よりも平均寿命が長いことが多いため、「長生きリスク」は女性にとって特に重要な問題となります。長生きリスクに備えるために、金銭的な準備、健康の維持、社会的なつながり、継続的な学び、心の準備などの心構えについて目にされることがあると思います。そのなかの「金銭的な準備」において、「税金対策」は見落とされがちですが、実際には非常に重要な要素となります。節税を効果的に行うことで、長期的な資産の保全や増加を実現することが可能です。アメリカ住む日本人女性のための、節税アイデアをご紹介します。
金銭的な準備としての節税対策
女性特有のライフイベントや状況を考慮することで、効果的な節税対策を行うことが出来ます。税金対策は早期から始めることが鍵となります。資産形成や投資戦略と同時に、税金対策も総合的な金銭的計画の一部として取り入れることで、長期的な資産の保全が可能となります。
<退職口座の活用>
アメリカの退職資金積み立てプランである401(k)やIRA (Individual Retirement Account) などのリタイアメント口座に積み立てることで、所得税の控除や税の延期が出来る場合があります。平均寿命の長い女性は長期間の資産成長を目指すことが重要です。
両アカウントとも、59.5歳前に資金を引き出す場合、10%の早期引き出しペナルティが適用される可能性があります。しかし、特定の状況、例えば初回の住宅購入や医療費のためのIRAからの引き出しはペナルティ無しで可能です。
また、両アカウントで72歳(2022年12月31日以降に72歳に達した場合は73歳)から必要最低限の分配額(RMD)の引き出しが求められます。女性の平均的な寿命が男性よりも長いことを考慮すると、RMDの計画は女性にとって重要です。
<HSA (Health Savings Account) の活用>
このアカウントは、高額控除の健康保険プラン(HDHP)に加入している人が、医療費のための税優遇措置を受けながら資金を積み立てることが出来るアカウントです。
女性がHSAを利用する際の利点としては、女性特有の生涯にわたる医療ニーズ、例えば婦人科診療、妊娠、出産、骨密度検査など、また、予防医療のサービス、例えば定期的な乳がん検診や子宮頸がんのスクリーニングなどに利用することができることです。
そして、HSAはリタイアメントプランとしても使用できるため、長生き老後の医療費に備えて資金を積み立てるのに役立ちます。
<子育てに関する控除>
子供や家族のケアに関連するコストを補助するためのアメリカの税制上のメカニズムにChild Tax CreditやDependent Care FSA (Flexible Spending Accounts) という制度があります。
その目的、利点、使用方法などには違いがありますので、子供のいるご家庭は、家族のニーズや財政的状況に応じて、このような制度を利用し、子育て関連の費用を節約することができます。
<教育資金の節約>
教育のための資金を積み立て、税制上の優遇を受けることを目的とした、二つの異なる教育資金積み立てプランがアメリカにはあります。529プランやCoverdell ESA (Education Savings Accounts) です。これらを利用し、子供や自分自身の教育資金を節税効果とともに積み立てることが出来ます。
寄付の上限、適用される教育レベル、投資対象の選択、所得制限など、条件に違いがあるため、家族のニーズや財政的状況を考慮してプランを選択することが大切です。
<ビジネスオーナーとしての控除>
女性起業家やフリーランスの方は、ホームオフィスの控除(家賃、光熱費、住宅の減価償却など)、オフィス機器やソフトフェアの購入費、車両関係の費用、ビジネス関連の旅行や食事など、ビジネス経費としての控除を最大限に活用することが出来ます。
また、ご自身のスキルアップのための研修費用も、その内容がビジネスの発展と関連がある場合には控除が可能です。複数の収入源確保としてサラリーウーマンをしながら、ご自身の趣味の延長での副業をトライしてみようという方の後押しにもなるかもしれません。
<慈善寄付>
所得税控除の対象となる慈善団体への寄付は、節税の方法としても有効です。多くの女性にとって社会貢献や個人的な価値観の実現手段として慈善寄付は価値があります。
女性の権利、健康、教育、ジェンダー平等など、女性特有の問題に関連する団体やプロジェクト、また、子供の教育や地域の健康福祉プログラム、自身が経験した問題や困難を克服するためのサポートを他社に提供することを通じて社会に貢献することもできます。
そして、遺産計画の一環として自分の価値観や願いを次世代に伝える手段としての役割を果たすこともできます。
<適切な税務申告ステータスの選択>
未婚、既婚、世帯主など、税務申告のステータスによって税率や控除額が異なるため、自身の家庭や経済状況、将来の計画を考慮し、最も有利で適切な申告ステータスを選ぶことが重要です。
未婚・離婚、または死別している場合、独立して収入を得ている場合、既婚者で夫婦間の収入の格差がある場合、片方が家庭を守っている場合、夫婦の負債の問題を考慮したい場合、別居中で女性が家計の半分以上を支えており、かつ自宅で子供や高齢者などの扶養家族と一緒に住んでいる場合、配偶者をなくし扶養する子供と共に生活している場合など、それぞれに適切な申告方法を選ぶことが大切です。
夫婦関係が良好な夫婦は贈与控除をすることも検討できます。
まとめ:女性のライフステージにおける税金対策
女性の各ライフステージにおける特定の税務上のニーズや機会に注意を払い、計画的に行動することで、税負担を最小限にし、資産を最大限に保護、増加させることが可能です。
学生時代・・・教育クレジット
・アメリカでは高等教育の費用に関してAmerican Opportunity CreditやLifetime Learning Creditといった税額控除が利用できる。
就職・・・401(k)、IRA、HSA
・早い段階から退職資金を積み立てることで、将来の税負担を軽減させることが出来る。
・高額控除型の健康プランを選ぶことで、税控除が受けられる。
結婚・・・既婚者の税申告ステータス、夫婦間のギフト控除
・結婚後は共同申告か個別申告の選択が必要となり、どちらが有利かは収入や控除の状況による。
・夫婦間での贈与は無制限に税控除を受けられる場合がある。
子育て・・・子供の扶養控除、Child Care Credit
・扶養する子供がいる場合、その数に応じて控除額が増加。
・子供の保育費用に関する税額控除が利用できる。
離婚・・・税務申告ステータス
・より有利な税率や控除額が適用されるHead of Householdのステータスを適用できる場合がある。
再婚・・・結婚による家計の影響
・再婚すると税務状況が変わる可能性があるので、新しい家計の税務計画を検討する。
退職・・・退職資金の取り崩し、ソーシャルセキュリティ
・401(k)やIRAからの引き出し時の税率や時期を適切に計画する。
・ソーシャルセキュリティ・社会保障給付を受け取る時期や方法によって税務上の影響が異なる。
遺産計画・・・遺産税の節税
・遺産の移転や信託の設定など、遺産税を最小限にするための計画が必要
以上
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お問い合わせはハラー基江 mhaller@cdhcpa.comまで。CDHでは米国在住の個人の税務申告作成のサービスを行う傍ら、これらの人たちのさまざまな問題点、疑問点を解決、説明すべく日々努力しております。またこれらの人たちが抱える問題は日米の税法をはじめ、移民法、生命保険、リタイアメントのルールなど複雑、多岐にわたります。この記事は複雑な税法や、複雑な規制をできるだけ簡単にポイントだけを理解していただく目的でお伝えしています。したがって例外もたくさんあります。実際にアクションを取る場合は、必ずエンゲージメントレターを交わした上で税務・法務などの専門家に相談をしてください。
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