ジャニーズ問題、ふるさと納税、横たわる日本人の課題

エス・アイ・エム
代表コンサルタント(認定心理カウンセラー)
佐藤 義規 氏

テレビのニュースや新聞報道では、連日ジャニー喜多川氏の性加害問題の報道が続いているかと思えば、いつの間にか問題の視点が変わっています。ジャニーズ事務所の名称変更やショップの営業終了、所属グループの名称変更などは単なる芸能ニュースでしょう。大手メディアはファンの感傷的な言葉を伝え、本質とはかけ離れた次元で煽っているように見えます。SNSでも「#ジャニーズ事務所ありがとう」がトレンド入り(※1)し、「ジャニーズと共に日本は大切な物を自ら手放す事になった。大変な損失」、「これからもずっとずっと大好き」、「ジャニーズは宝物」、「ジャニーズは青春」、「素敵な推しに出会えて幸せ」、「自然災害やコロナ関連・児童養護施設・医療の分野での支援を行ってきた」、「社長の名前って意識は微塵たりとも持っていない」などというファンの声を報じています。ジャニー喜多川氏の性加害問題が明らかになった今、ファン視点での感傷的な言葉を伝えることに何の意味があるでしょう。統一教会の信者の声を大きく報じているようなものです。ジャニー喜多川氏の性加害問題は、被害者が数百人(事務所発表は478人:10/2時点)にも及ぶ歴史的幼児虐待犯罪だということを本当に理解しているのでしょうか?

第二次世界大戦当時、ヒトラーやナチスも国民の熱狂で迎えられていました(当時、ハーケンクロイツ(逆卍)はジャニーズグッズと同じようにもてはやされましたが、今や世界的にタブーです。)が、果たしてドイツ(だけでなく)メディアはこのようなことを伝えるでしょうか?それもこれも、最初の段階で事務所が性加害問題の大きさを真摯に捉えていなかったことにも一因があると思いますが、日本の大手メディアの偏った報道姿勢にその責任があるのは間違いありません。注目すべきは、元テレビアナウンサーで長年報道ステーションのキャスターを務めてきた古舘伊知郎氏の発言です。(※2)スポーツ紙とネットメディアしか報じていませんが、ジャニーズ問題を報じる側の信頼にも関わる衝撃的な内容です。それにも関わらず大手メディアがこの発言の前に沈黙することこそが、この問題の根深さを物語っているといえます。そもそもジャニー喜多川氏の性加害問題について報じていたのは週刊誌のみで、大手メディアは何十年も沈黙してきたのです。SNSが広く普及し、多くの市民が新聞やテレビから離れていると言われて久しいですが、それでも大手メディアによる市民生活への影響は大きいのです。情報操作や洗脳とまでは言いませんが、大手メディアの伝え方や論調によって市民の受ける印象が大きく左右され、発言や行動が左右されることは否定できません。

以前、「ふるさと納税に浮かれて市民生活の危機」(※3)で「この制度で自治体からの業務委託などで手数料(一部では寄附額の13.2%)を取っている事業者は、大半が東京に拠点を置いているという点にも目を向けるべきでしょう。」と書きました。この点をNTTデータ経営研究所が調査したところ、「自治体の財源にはならない経費総額が寄付額の55.6〜59.6%」にもなっていることが試算されています。(※4)こうしたデータも大手メディアでは一切報じられません。テレビや新聞に出ている「ふるさと納税」の広告宣伝の量を考えれば、当然とも言えます。多額の広告収入が大手メディアの報道姿勢に影響を与えないはずがありません。こうした現実の前では「ジャーナリズム」という言葉はとても空しく響きます。「ふるさと納税で地方の自治体に入る寄付額が半分以下でも入らないよりはいい」という意見もあるでしょう。しかし、本来は住民税として居住自治体に入るはずだった税金が外部業者に流れ税収が激減し、居住自治体の市民生活に深刻な影響が出始めていることを考えると、こうした考え方に賛同する人は少ないでしょう。

大手メディアは為政者や影響力のある人や組織の広報や協力者と化し、バッシングするとしても、彼らが力を失ってからです。これではジャーナリズムは機能せず、社会正義が果たされる可能性は少ないでしょう。多くの日本人が自分の頭で考えることをやめてしまっているからとも言えます。メディアの流す情報を自分の頭で考えることもせず、受け入れてしまうことで、為政者や影響力のある人や組織の思うように操られてしまっているのです。インターネットの普及で以前よりも格段に多くの様々な情報が取り易くなっています。しかし現実は、自分の好きな情報だけに囲まれ、異なった意見や価値観には目を背けるか、隠れて(匿名で)うっぷん晴らしに批判攻撃するような人が増えているように感じます。これは日本という国に住む人にとって非常に危険な兆候です。戦前の日本の社会構造に似てきているという気がしてなりません。

先日、「福田村事件」(※5)という映画を観てきました。関東大震災後にあった虐殺事件の映画ですが、震災後に流れた「朝鮮人が井戸に毒を撒いている」などといったデマの影響で、香川県からの薬の行商団15名が朝鮮人と間違われたことで、地元(千葉県)の福田村および田中村の自警団に暴行され、9名が殺害された事件です。関東大震災における朝鮮人虐殺の被害者は数千人とされています(小池百合子都知事などの歴史修正主義者は虐殺の事実を認めていません)が、日本人も同胞に虐殺されていたという驚愕の事件です。(※6)映画にも出てきましたが、虎の威を借り、周りの村人を誤った方向(殺人)にけしかける人物がわかりやすいキャラクターで登場します。現実の社会、会社などの組織においても、こうした人物は存在します。結果的に偏った価値観や一時の勢いで組織を誤った方向に進めてしまったというケースは枚挙に暇がありませんし、そうした人物が重用される傾向もよく見受けられます。

また、朝鮮人虐殺には、関東各地の警察が「朝鮮人に気をつけよ」「夜襲がある」などと、官の側から流言蜚語をまき散らし、新聞もその拡散に手を貸してしまった結果、大量虐殺に繋がった可能性があるという側面もあります。映画では真実を伝えようと尽力する女性新聞記者がいましたが、果たして現実社会はどうでしょう。

為政者や影響力のある人や組織が情報によって民衆を操作するといったことは、これまでも、日本だけでなく色々な国で行われてきたことです。偏った情報に流されないようにするためにも情報のアンテナを広げ、知識を深め、自分で取捨選択を行えるように努力することは重要です。そして、時には大手メディアの報道姿勢にも疑いの目を持ち、できるだけ客観的な目を持てるように日頃から心掛けていくようにするしかありません。

国民一人一人の心がけ次第で、この国の未来は変えられるのです。

※1:「#ジャニーズ事務所ありがとう」がトレンド入り オンラインショップもアクセス集中 61年の「屋号」に幕

https://news.yahoo.co.jp/articles/20472e8e6624cbd998f942ebaba761fb32d42ff1

※2:古舘伊知郎がぶちまけた〝ジャニーズの甘い蜜〟銀座の高級クラブ、プラチナチケット…テレビ局上層部から現場まで享受か

https://news.yahoo.co.jp/articles/fb0d26734d6fc2121936d9a45b769b5f16ac374f

※3:ふるさと納税に浮かれて市民生活の危機(The Stellar Journal)

https://bit.ly/3P4VwYF

※4:ふるさと納税、一番得をしているのは誰? 寄付額の2割以上は業者に…「5割ルール」徹底で何が起きるか(東京新聞)

https://www.tokyo-np.co.jp/article/283941

※5:映画「福田村事件」公式サイト

https://www.fukudamura1923.jp/

※6:関東大震災における朝鮮人虐殺に関する質問主意書(衆議院)

https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/a195009.htm

以上

記事の無断転載を禁じます。

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