米国最高裁の判決は、FBAR罰金272万ドルではなく5万ドル

CDH会計事務所
国際税務コンサルタント
ハラー 基江 氏

日本の銀行口座や証券口座などの残高を米国税務申告時に報告する、通称FBARという申告書に関連する取り締まりは厳しく、正しく申告されていない場合のペナルティも非常に厳しいです。このブログでも過去に2回取り上げたBittnerのケース、最高裁での判決が下されました。このケースは、もともとテキサス州地裁でFBAR罰金5万ドルという判決が出たのですが、その後、テキサス州を管轄する第5巡回控訴裁では罰金272万ドルと言い渡され、それが最高裁へ行き、下された判決は、罰金5万ドル。つまり、FBARのペナルティは保有している金融口座数ではなく、申告漏れ年数(申告書数)でカウントされる、そのように決着しました。 

このケースを簡単に説明すると、まず、故意ではなく米国外の金融資産の残高を、FBARという申告書で情報開示していなかった違反者に対するペナルティは、$10,000とされています。この$10,000が、申告していなかった口座の数に対する1万ドルなのか、あるいは、申告していなかった年数(提出していなかった申告書数)に対する1万ドルなのか、というのが論点でした。

具体的にいうと、ある違反者の申告漏れ口座数が毎年10口座あり、申告漏れ年数が5年ある、と仮定しましょう。ペナルティ額は、口座数で計算されるテキサス州の場合、$10,000×5年×10口座=$500,000。一方、年数で計算されるカリフォルニア州の場合は、$10,000×5年=$50,000と、この場合は10倍の差があるというのがごく単純化したこれまでのお話でした。そしてBitnerには口座数が5年合わせて272口座あったのです。従って、$10,000×272口座(5年分)=$272万となるのか?あるいは、$10,000×5年=$50,000となるのか?

この度、Bittnerのケースに対し、$10,000×5年=$50,000で決着がついた、というのが現在です。

これまでの経緯はこちらをご覧ください。

居住州によって変わる!?日本金融資産報告漏れのペナルティ額https://www.cdhcpa.com/ja/dojapanesefinancialassetpenaltyamountschangebyyourresidentusstate/

最高裁で決着予定。同じケースに罰金額が5万ドルと2.7ミリオンドル

https://www.cdhcpa.com/ja/supremecourtresolvesfbarpenaltycontroversy/ 

今回の「年数」判決となった意見には以下のような点があげられます。

  • 条項内や2004年の法律改正の際に、非故意の違反者に対する罰則を改正したものの、ペナルティ額が口座単位であることは明言されていない。

  • 政府から提供されている警告、刊行物、説明書などには、1つの申告書は1つの違反に相当し、それは$10,000に相当するいう表現の伝え方をしているようである。

  • この法律は、政府がさらなる調査の必要性に気づくに足りうる報告書を提供することを目的としているのであって、細部にわたるすべての詳細の提示を目的としたり、政府の収益最大化を目的としているわけではない。

  • 口座単位の罰則にしてしまうと、故意の違反者が非故意の違反者よりも低い罰則を受けるといった異常事態を招くが、非故意者の罰則を年数単位で適用することで問題は回避できる。

上記に対する反対意見は、Amy Coney Barrett、Clarence Thomas、Sonia Sotomayor、Elena Kaganの4判事。

参考文献

https://answerconnect.cch.com/document/ftd016c081c99cdb44e6b9806d1d22e0a0bc0/news/supreme-court-rules-fbar-penalty-applies-on-per-report-basis-bittner-sct 

https://www.naag.org/attorney-general-journal/supreme-court-report-bittner-v-united-states-21-1195-2/ 

以上

記事の無断転載を禁じます。

——————————————————-

記事に関するご質問、記事に取り上げてほしいというトピックがありましたら、Haller基江mhaller@cdhcpa.comまで。CDHでは米国在住の個人の税務申告作成のサービスを行う傍ら、これらの人たちのさまざまな問題点、疑問点を解決、説明すべく日々努力しております。またこれらの人たちが抱える問題は日米の税法をはじめ、移民法、生命保険、リタイアメントのルールなど複雑、多岐にわたります。この記事は複雑な税法や、複雑な規制をできるだけ簡単にポイントだけを理解していただく目的でお伝えしています。したがって例外もたくさんあります。実際にアクションを取る場合は、必ずエンゲージメントレターを交わした上で税務・法務などの専門家に相談をしてください。 

初回無料のRoadmap Session (35分) も受け付けています。下記からお申込みください。

https://outlook.office365.com/owa/calendar/Bookings@cdhcpa.com/bookings/

CDHの税務サービスについては、https://www.cdhcpa.com/ja/cross-border-individual-tax/

税務などの最新ブログをご覧になりたい方は、https://www.cdhcpa.com/ja/news/

最新ニュース満載のNewsletterを毎月受け取られたい方は、https://www.cdhcpa.com/login/

CDHのリソースは、https://www.cdhcpa.com/ja/personal-tax/ のページですべてアクセスできます。YouTube、FaceBook、無料のオンラインでのコンサルテーション、遺産、永住権の放棄、出国税、Form 1040、税金シミュレーション、海外資産報告などの分野ごとのオンライン質問フォーム、月次のニュースレターのサインアップなどがございます。情報満載の過去の記事は、https://www.cdhcpa.com/ja/news/ からどうぞ。ぜひお気軽にご利用ください。

Previous
Previous

昔の英雄は今の悪者?

Next
Next

松下幸之助発言から44年経っても未来が描けない日本