松下幸之助発言から44年経っても未来が描けない日本

エス・アイ・エム
代表コンサルタント(認定心理カウンセラー)
佐藤 義規 氏

その昔、「経済は一流、政治は三流」と言われた日本は、今や経済までもが三流に落ちようとしています。その原因は、日本の組織体質にあるといえるでしょう。政治は三流でも経済が一流でいられたのは、その裏側に優秀な官僚がいたからに他なりません。優秀であった官僚組織はその後絶対的権力を握った三流の政治に忖度し、官僚機構までもが三流となってしまったため、結果として経済もまた三流に落ちようとしているのです。失われた30年と呼ばれ、30年にわたり日本企業の総合競争力が落ちていることは周知の事実です。先進国と呼ばれる国の中で成長力が最も欠けているのは日本です。日本の平均賃金は主要7カ国(G7)で最下位まで落ち、G7の中で1997年からずっと実質所得が落ちているのは日本だけです。

最新の集計では、一人当たりの国民実質所得(GNI)は世界33位(※1)まで落ちてきています。労働生産性もOECD加盟38カ国中23位などと、国力の指標となる数字がことごとく落ち込んでいる上、さらに円安物価高が止まらないのが現在の日本です。他にも日本の凋落ぶりを物語るデータは山のようにありますが、未だに政治家もマスコミもマスターベーションともいえる「日本スゴイ」的なコメントや報道ばかりに終始しています。国民もオリンピックやWBCといったお祭り騒ぎに目を奪われ、自分たちの生活基盤に関わる行政や政治の問題には目を向けようとしません。現在も高市早苗氏が総務大臣時代に放送法上の「政治的公平」の解釈について安倍総理大臣と電話で協議したのではないかという重要な疑惑が湧いています。(※2)

民主主義の根幹ともいえる報道の自由や国民の知る権利を左右する大きな問題であるにも関わらず、マスコミも国民の多くも、WBCでの日本選手の活躍は何度も話題にするものの、こちらはほとんど気にかけないようです。

重要なのは、日本という国が組織的に見ると大きく歪んだ組織となっており、それが主たる原因となり国力を落とし続けているという事実です。

会社組織に置き換えてみましょう。経営者の周りには共通の利害関係者と盲目的に従うイエスマンしかいません。経営幹部の機嫌を損ねないように都合の悪い情報は隠され、都合の良い偏った情報が集められます。経営者はそれだけを見て経営判断をし、自分たちにとって都合の良い決断を重ねていくということになります。そんな企業が成長を続けられるハズも無く、淘汰されるのは明らかでしょう。(反面教師としてマネジメントに活かすことができれば、組織を活性化し、生産性を向上させ、ビジネスの成功確立を上げることが可能とも言えます。)

日本の問題点について具体的事象で見てみましょう。

何十年も前から予想されながら、未だに解消できず、今や日本経済凋落の大きな要因である少子高齢化についてです。政府は出産一時金や子供手当など目先のバラマキに終始しています。男性の育休取得が「異次元の少子化対策」で、それが同時にリスキリングの場としようなど、もはや開いた口が塞がりません。安定した雇用と安心して生活するに足る収入の確保、保育施設の拡充や労働時間の抑制、教育費の削減など、結婚、出産、子育てという本来もっとも重要である基本的かつ安心できる社会環境作りについては、具体策はまったくと言っていいほど進んでいません。これでは、子育てどころか、結婚すら増えるハズがありません。その上、同性婚や選択的夫婦別姓制度も進まず、むしろ、結婚を阻害し、少子化を推進しようとしているようにも思えてしまいます。これはすなわち、国民生活の実態を把握しておらず、国民の声も届いていないことは明らかです。

安全保障・防衛政策についても同様です。政府は防衛費大幅増額を掲げていますが、これはすなわち増税に直結することを意味しており、さらなる国民生活への圧迫となり、ますます少子化に拍車がかかることになるでしょう。(※3)エネルギー政策についても、原子力発電の推進が明らかになっており、60年を超え老朽化した原発の長期運転や、次世代型の原子炉の開発・建設に取り組むとしています。ミサイル一発被弾しただけで大規模被害が想定される原発の推進と、いつ事故が起きてもおかしくない老朽化原発の長期運転など、真に国民の安全や国の防衛を考えているのであれば、決して選択肢には入らないでしょう。すでに日本には54基の原発、すなわち54ヶ所のミサイルターゲットがあります。(※4)さらにリスクを増やす政策を進めようとしながら、防衛費増額もないでしょう。敵基地攻撃能力以前の問題です。政府は原発にはミサイルは当たらないと思っているようです。

敗戦から高度成長を実現したように、福島原発の事故を契機に国を挙げて新エネルギー技術の推進に舵を切っていれば、今頃日本は新エネルギー技術先進国となった可能性は大きかったように思います。それによって地球上の核兵器廃絶に向け大きな役割を果たせるようになっていたかもしれません。さらには、今地球上で起こっている戦争や紛争を防げた可能性もあったかもしれません。

「タラレバ」で語るのは意味がありませんが、少なくとも長期にわたる国家戦略を描ける政治家は今の与党にはいないようです。今から44年前に松下幸之助氏が「日本の政治には国家百年の計がない」と言っています(※5)が、44年経ってもそれは変わらないようです。

これだけ矛盾した政策を進めている政権が未だに存続していることを受け入れてしまっている国民の責任も大きいといえます。慣れてしまったのかもしれませんが、大人しい羊として都合よく飼いならされたとも言えます。

※1:世界の統計2023(総務省統計局)

https://www.stat.go.jp/data/sekai/0116.html

https://unstats.un.org/unsd/snaama/Index

※2:高市早苗氏 総務省文書作成者は「レクあった」証言(東京新聞)

https://www.tokyo-np.co.jp/article/239198

※3:岸田文雄首相は「土の匂いがしない」支持率低迷でも原発回帰、防衛費増額などを強行(AERA)

https://news.yahoo.co.jp/articles/d719499864b04c43e845dcca17f02b07cd60ea02

※4:日本の原子力発電所マップ 2022年版(JAPAN DATA by nippon.com)

https://www.nippon.com/ja/japan-data/h01365/
※5:日本をひらく 新国土創成論(松下幸之助 著:PHP研究所)
https://www.php.co.jp/books/detail.php?isbn=978-4-569-53032-1

以上

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