日本の状況を企業に置き換えてみると…

エス・アイ・エム
代表コンサルタント(認定心理カウンセラー)
佐藤 義規 氏

今や日本は、失われた30年を超え、失われた40年に向かっています。これは、国の存続すら危うい状況になりかねない未曽有の危機だといえるでしょう。GDP世界第三位を維持できたと言っても、人口が多いゆえの合計金額による順位であり、国民一人当たりGDPでは第30位まで後退しています。(※1)実際の日本経済の凋落ぶりは一人当たりGDP世界第一位のルクセンブルグと比較するとよくわかります。(※2)

GDPを世界第三位にかさ上げしている人口も、減少に歯止めがかからず、少子化対策は目先のバラマキに終始しています。国民の所得は1997年以降OECDで唯一低下し続けています。日本の最低賃金の低さはOECD諸国平均の3分の2以下。失業率の低さは非正規雇用の増加で「盛られた」数字です。他にも日本青少年研究所の高校生調査(※3)やユニセフ(国連児童基金)の幸福度調査(※4)などでも暗澹たる結果です。それでも未だにマスコミが先導し、多くの国民が「日本は先進国」、「技術立国」、「おもてなしの国」などと言っているのは、「もはや頭の中はお花畑」としか思えません。

今の国の状況を企業に置き換えてみるとよくわかるかもしれません。

採用時のお祝い金を用意して社員数を増やそうとしても、基本給は業界最低レベル。30年目に業界トップクラスだった技術力も売上もその後大きく下降線をたどり、研究開発に携わる研究者も研究費も減るばかり。売り上げは競合企業に追い抜かれ、赤字は増える一方。赤字削減のためと言って社員の手当てや福利厚生を削減するだけで、役員や管理職は特権階級意識から遣い放題。取引先には協力金の名目でばら撒きを繰り返す。管理職はトップの顔色を伺い、都合の悪い報告は隠し、耳に心地いい報告ばかりを上げる。広報や社内報では、過去の栄光と会社や社員がいかに素晴らしいかを垂れ流しているだけ。業界トップから転落し長期低迷しているにもかかわらず、相変わらずランチェスター戦略の強者の戦略を取り続ける経営陣。こんな企業がいつまでも存続するでしょうか?

日本は、東日本大震災での福島原発事故という国の存続にかかわるような厳しい経験をしたことで、エネルギー政策の転換による再生可能エネルギーの新たな技術開発と巨大市場の創出というチャンスを得ました。しかし、この機会を活かせないどころか、現政権は原発回帰を打ち出しています。(※5)世界的にはいずれ過去の遺物となる原子力発電に戻してどうするのでしょう。世界の潮流は再生可能エネルギーです。フランスなどのように一部原子力発電に依存してる国はあるものの、今や再生可能エネルギー産業は隆盛を迎えようとしています。IEA(国際エネルギー機構)によると、2022年の再生可能エネルギー新規導入量は300GW以上で過去最高の導入量になり、世界全体が再生可能エネルギーの導入に積極的であり、今後もその割合は増加すると予想しています。(※6)化石燃料依存で批判されていた中国でさえ、電力消費量の約14%、発電設備容量の約26%がすでに再生可能エネルギーに置き換わっています。日本は原発事故を機に再生可能エネルギー産業で世界をリードする絶好の機会があったにもかかわらず、今や大きく後れを取ってしまいました。技術革新や新しいビジネスチャンスに目を向けず、旧態依然とした原子力に人材も税金も投入し続ける国が果たして未来に輝ける国となるでしょうか?現在の日本の原子力発電の比率が他の国と比べて低いのは、原発事故前に比べ1/4以下になったからです。それを再び増やすことに何の意味があるでしょう。ニッチな原発廃止事業に国の未来をかけようとでもいうのでしょうか?

果たして若く優秀な人材が原子力産業に目を向け、そこで働こうと思うでしょうか?市場が拡大している再生可能エネルギー産業であれば、世界という大きな市場で多くのビジネスチャンスが期待でき、雇用拡大、優秀な人材の獲得、またその育成に関わるビジネスの機会も生まれるでしょう。

同じ“電気”括りになりますが、電気自動車はどうでしょう。今や世界の潮流は電気自動車です。(※7)しかし、自動車メーカーのランキングでは、以前は日産ルノーグループがベスト10入りしていましたが今や国産メーカーはベスト10圏外です。(※8)大きなビジネスチャンスが期待される電気自動車という新たな分野がどうしてこうなっているのでしょう?

これには政治と経済界の関係性の問題があるように見えます。

自動車メーカー世界第1位のトヨタの最大の売りはハイブリッド車です。電気自動車も開発をしているとはいえ、いまだにガソリン車とハイブリッド車がトヨタのメイン商品となっています。今稼げるハイブリッド車でできるだけ長く利益を得たいというのは当然のことでしょう。しかしながら、過去にモトローラやコダックの事例(※9)にもあるように、成功している既存商品にこだわったがゆえに新規事業への戦略転換が後れ、致命傷となった例は数多くあります。

結果的に日本は電気自動車で遅れを取ることになっているわけです。一企業の思惑が国全体に影響するとは思えないかもしれませんが、これは政治献金の産業別ランキングを見ると明らかです。(※10)自動車産業が最大の献金元である自民党にしてみれば、当然自動車メーカーに協力することになり、結果的に電気自動車に関する法整備などが後れるのは当然のことでしょう。事実、今や電気自動車の普及の鍵となる充電スタンドは減少傾向となっています。(※11)

果たしてこれで日本の自動車産業の将来は明るいといえるのでしょうか。

日本の行政(公務員)が大きく変わったのは、第2次安倍内閣の下で内閣人事局が設置されてからです。国家公務員の人事を内閣が握り、コントロールできるようになったことに起因しています。国民のために働く公僕であるはずの公務員は、政府与党の政治家の下僕となってしまい、国民や未来をより良い国にするために働くような形になっていません。政治や行政が本来の機能と責任を果たさず、政治家の目が国民生活よりも多額の企業献金や集票が期待できる大手企業や宗教団体などに向いている限りは、国民生活が良い方向に向かうことは無いと断言できます。

※1:世界の一人当たりの名目GDPランキング(IMF-WorldEconomicOutlookDatabases(2023年4月版)https://www.imf.org/en/Publications/SPROLLS/world-economic-outlook-databases#sort=%40imfdate%20descending

※2:一人当たり名目GDPの推移(世界経済のネタ帳:ルクセンブルクと日本の比較)

https://ecodb.net/exec/trans_country.php?type=WEO&d=NGDPDPC&c1=LU&c2=JP&s=&e=

※3:高校生の生活と意識に関する調査報告書-日本・米国・中国・韓国の比較-(独立行政法人国立青少年教育振興機構調査結果)

https://www.niye.go.jp/kenkyu_houkoku/contents/detail/i/98/

※4:先進国の子どもの幸福度をランキング『レポートカード16』(ユニセフ)

https://www.unicef.or.jp/news/2020/0196.html

※5:「電気代抑制」盾に原発回帰 統一選懸念、安全論議置き去り―岸田政権、震災教訓どこへ(時事通信)

https://www.jiji.com/jc/article?k=2023030700994&g=eco

※6:IEA、2022年の再エネ年間新規導入容量を初の300GW超と予測(JETRO)

https://www.jetro.go.jp/biznews/2022/05/3eb0816aeaa5eee9.html

※7:世界のEVシェア、10%の大台に 米でも徐々に普及(The Wall Street Journal)

https://jp.wsj.com/articles/evs-made-up-10-of-all-new-cars-sold-last-year-11673907660

※8:世界EV販売、日産・三菱勢が7位 ホンダ26位、トヨタ27位―昨年(時事通信)

https://www.jiji.com/jc/article?k=2023021600830&g=eco

※9:Goodbye Moto: How Chicago's greatest tech company fell to earth(Crain's Chicago Business)

https://www.chicagobusiness.com/static/section/goodbye-moto.html

Kodak’s Downfall Wasn’t About Technology(Harvard Business Review)

https://hbr.org/2016/07/kodaks-downfall-wasnt-about-technology

※10:政策減税の「恩恵」、自民党献金の多い業種ほど手厚く 本紙調査で判明(東京新聞)

https://www.tokyo-np.co.jp/article/99557

※11:電気自動車の充電スタンド なんで減ってるの?(NHKビジネス特集)

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210719/k10013147001000.html

以上

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