近視眼的思考と過去を学ばない日本

エス・アイ・エム
代表コンサルタント(認定心理カウンセラー)
佐藤 義規 氏

広島に行く機会があり、その際に広島平和記念資料館、原爆ドームなどを見学してきました。広島平和記念資料館は広島原爆の惨状を後世に伝えるための施設として開館し、原爆資料館、もしくは平和資料館とも称される歴史的資料館です。ここを訪れた人のほとんどが核兵器や戦争の恐ろしさとともに、原爆死没者の慰霊と世界恒久平和を願うことでしょう。常に訪日外国人の訪問先で上位に挙げられており、来場者の約4割を外国人が占めているそうです。その訪日外国人は2ヶ月連続で300万人超えという報道が出たばかりです。(※1)

外国人観光客に人気の日本ですが、日々のニュースを見聞きしていると、日本の未来に明るい要素が見えてきません。多くの問題の根底に、日本人の近視眼的思考があるように思えます。近視眼を英語にすると、myopia、near-sighted、self-centered、short-sightedness などでしょうか。それぞれ若干ニュアンスが異なりますが、これらを一括りにしているのが今の日本の問題に共通する思考だと思います。身近なことしか目に入らない、同じような意見を持つ仲間と群れる、結果的に考え方が執着的・固定化してしまう。短期的な効果に目を奪われてしまい、長期的には好ましくない結果をもたらすような意思決定をしたり、施策を受け入れてしまったりし続けているように見えるのです。

例えば、マイナンバー制度などは、目先の僅かな金銭(マイナポイント)に釣られて、将来的に大きな損失や無駄、国家による個人情報管理などをもたらす仕組みを自ら受け入れたケースとなりそうです。来年末には従来の紙の保険証が廃止され、マイナ保険証へ移行します(※2)が、保険証の利用率が高いのはスマホ利用率が低く、スマホを使いこなせない高齢者達です。弱者に優しい制度とは言えないでしょう。また、過去の選挙結果を見ると、目先の数万円の「ばらまきの人気取り政策」に釣られて投票した人が多いように思えます。結果的に将来の自分や自分の子供や孫世代にツケを回しているのです。毎年のように実施されている政府与党の子育て支援策がまったく効果を上げていない理由もそこにあります。

連日報じられてきた自民党の裏金問題も曖昧な形で終わりそうです。その渦中で「国政選挙の候補者に使途が公表されない内閣官房報償費(機密費)が使われた可能性がある」という元政権幹部の発言(※3)が出てきており、事実であれば大変なスキャンダルになる内容です。しかし、大手メディアは揃ってスルーしていますし、国民も大きな関心を払っていません。機密費に関しては、元官房長官の故野中広務氏も政界引退後に証言しています。これが大きな問題にならないのが不思議でなりません。その裏で「セキュリティ・クリアランス制度」を創設する法案が、まもなく参議院本会議で可決・成立する見通しとなっています。(※4)公安等の国家権力に相当な権限を与える法律でもあり、またその対象となった者への救済手段がまったく見えず、戦前、思想・言論弾圧に利用された治安維持法の復活となりかねない法案です。

現在の日本を取り巻く様々な問題は、ひと言で言えば現在の自民党政権の無能、無策によるものですが、そもそもそれを許してきたのは国民です。少子高齢化は50年前から危惧されていた問題であったにも関わらず、何ら効果的な対策を打てずに今に至ります。

今や多くの自治体が消滅可能性自治体となり、大都市圏であってもそのリスクが高まっているのです。(※5)すでに都市部でも25自治体、東京23区中16区にそのリスクがあると指摘されています。しかし、東京、大都市圏は大丈夫という思い込みによって自治体職員でさえそのリスクを認識できていません。円安による物価高がニュースで取り上げられ、一方でオーバーツーリズムによる様々な問題も報じられていますが、それよりもインバウンド礼賛で外国人旅行者の落とすお金の方をことさら取り上げています。しかし、これらは同じ根っこの問題です。円安、つまり日本の経済的価値が急激に下がっており、国力が大幅に低下したことに起因しているのです。

故安倍晋三元総理が提唱したアベノミクスは、円安誘導策でした。それがここまで日本の国力を低下させ、今や日本の大バーゲンセールとなっているわけです。これは、多くの(?)国民が安倍氏を総理大臣として高く評価・支持し、アベノミクスと長期政権を容認してきた結果なのです。故安倍氏は、外国人旅行者の増加によるインバウンド効果を自身の手柄のように語っていました。しかし、そもそもインバウンド効果を狙った政策転換は、故安倍元首相の言葉を借りれば、「悪夢の民主党政権」時代に日本の観光立国化を実現すべく実施された「新成長戦略」の中の具体策「観光ビザの緩和」によるものです。彼はその成果をさも自分の成果のように語っていたわけですが、何の意図があるのか、メディアはそれを指摘しませんでした。また、国民も疑いもせず嘘を真に受けていたわけです。国会で118回もの嘘(虚偽答弁)をしていた人物の言葉を、です。(※6)日本を安売りし破壊してきた政治家を売国奴と呼ばず、悲劇のヒーローのように扱うのはどうなのでしょう?少なくとも、日本の安売りによって、水資源などの重要な資源や国防上重要な地域が海外に買われていることは知るべきでしょう。(※7、※8)

現代のように加速主義的傾向が支配的な社会では「スピード感」がすべてに優先され、煽る人たちが世間の耳目を集めます。そうして採用された政策がいかなる結果をもたらしたかの事後検証もなされず、人々も興味を示さないという状況が日本では続いています。スピード感が重要なのは理解できますが、過去を振り返り、失敗から学習する習慣を失った国民の前に果たして明るい未来が開けるのか、大きな疑問を感じるばかりです。

※1:4月訪日外国人、19年比4%増 2カ月連続300万人超え=政府観光局(Newsweek)

https://www.newsweekjapan.jp/headlines/business/2024/05/498204.php

※2:紙の保険証、来年12月1日で原則廃止へ マイナ保険証の移行めぐり(朝日新聞)

https://www.asahi.com/articles/ASRDP4WK5RDPULFA014.html

※3:「自民党は解党以外にない」安倍元首相、参院選で100万円手渡し報道…官房機密費が使われた可能性に批判殺到(Smart FLASH)

https://news.yahoo.co.jp/articles/1c6725f6a02686353243edfa8d9c42caf86d19f4

※4:「セキュリティ・クリアランス制度」創設法案が成立へ 保全される情報の範囲などの積み残しは有識者会議で議論へ(TBS・JNN NEWS DIG)

https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/1161834

※5:【消滅可能性自治体】人を飲み込む?25自治体が“ブラックホール型”ナゼ 744自治体「消滅可能性」…対策は?(日テレNEWS)

https://www.youtube.com/watch?v=FQW17amKQIM

※6:安倍前首相の「虚偽答弁」118回 衆院調査局 桜を見る会前夜祭(毎日新聞)

https://mainichi.jp/articles/20201221/k00/00m/010/234000c

※7:「日本の水が外国から狙われている」のは本当か(東洋経済オンライン)
https://toyokeizai.net/articles/-/429632

※8:宮崎県の森林717ha、取得したのは外国資本…「中国語」話す会社代表が通訳伴い届け出(読売新聞)

https://www.yomiuri.co.jp/local/kyushu/news/20240330-OYTNT50035/

以上

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