怠惰な日本人と予測される未来

~ 日本はアジア太平洋地域でもすでに下位 ~

エス・アイ・エム
代表コンサルタント(認定心理カウンセラー)
佐藤 義規 氏

以前、日本のGDPはいずれドイツや韓国、インドに抜かれると書きましたが、先日のニュースで実際にドイツに抜かれたことが伝えられました。(※1)3位になったドイツが好景気で沸いているかというと、まったく違うようです。経済の低迷や移民の問題などから国民の不満が高まっており、そうした不満を追い風としてEU離脱(デグジット)を主張する極右政党の支持率が急激に高まっています。一方でそれに対する激しい抗議デモが5週連続で起こり、ドイツ国民が真っ二つに分断しているのが現状のようです。(※2)そのドイツに抜かれた日本では、相変わらず自民党議員の裏金問題と松本人志氏の性加害問題が話題の中心です。マスコミも国民も、日本の国力低下・国際的な存在感の低下を真剣に受け止めているようには見えません。円安による影響が大きいので、為替相場が1ドル=135円くらいになれば状況は変わる、などと一部の評論家は発言しているようですが、単に為替の問題なのでしょうか?あまり伝えられていませんが、日本は世界競争力ランキング2023で過去最低の35位にまで落ちています。(※3)アジア太平洋地域で日本より下位の国は、インド、フィリピン、モンゴルのみといった事実を前に、単に為替相場の問題だと片づけるのは無理があります。

為替の変動が起きる主な原因は「金利」です。したがって、短期的には「金利」で決まる為替ですが、長期的には「国力」によって国家の通貨価値が決まることを理解すべきです。その視点で見た場合に、状況を改善できる要素が見当たりません。「国力」の基本は人口で、日本の高度成長は人口増加がもたらしたといっていいでしょう。3,000万人台だった江戸時代の総人口が100年ほどで4倍に増えたのですから、国力が拡大したのは当然です。(※4)しかし、現在の日本は少子高齢化が世界一です。(※5)このままのペースでいけば、今世紀末には日本の総人口は今の半分以下になってしまう計算になります。その一方で高齢者は増え続けます。15歳から64歳の労働力人口と65歳以上の高齢者の人口は国民皆年金・皆保険が導入された1960年頃は11対1でした。高齢者の10倍も働き手がいたのです。しかし、今世紀半ばにはそれが1.3対1まで減少する見通しです。定年の引き上げや健康寿命の延伸、リスキリングなどが行われていくでしょうが、焼け石に水でしかないでしょう。国力低下による円安傾向は不可避といえます。1971年にノーベル経済学賞を受賞したマクロ経済学の大家サイモン・クズネッツは、「世界には4つの国しかない」として、敗戦後の焼け野原から奇跡の復興を遂げ、わずか20年で先進国の仲間入りをした日本を4つのうちの1つとしていましたが、それももはや過去の話です。むしろ、同じく例外とされ、世界第5位の経済大国から途上国に転落したアルゼンチンの経済的没落を想起させるほどです。日本は先進国どころか、アジア太平洋地域でももはや下位の存在なのです。

ちなみに日本を抜いて3位になったドイツの人口は、日本の約3分の2です。国民1人当たりに換算すると1.5倍の経済格差がついていることになります。しかも、ドイツ人の平均年間労働時間(1,341時間)は日本人(1,607時間)より2割ほど短いので、その差はさらに大きいと言えます。(※6)以前も触れましたが、未だ改善されない日本の労働生産性の低さが諸悪の根源となっています。この点についてはまた機会があれば掘り下げたいと思っています。

さて、現在の日本のニュースの中心は自民党の裏金問題です。岸田文雄首相は、疑惑の中心にいる安倍派の閣僚4人などを更迭し、内閣改造を行って幕引きを図ろうとしたようですが、未だ収束する気配はありません。今後、政治資金規正法の改正なども議論されると思いますが、果たして閣僚の更迭や政治資金規正法の改正などで解決するのでしょうか?

実は、この自民党議員の裏金問題は60年ほど前にも問題となっており、ついには昭和42年5月23日の衆議院大蔵委員会において審議されています。(※7)この時も現職議員181名、前議員22名、合計203名が、修正申告や更正処分をしており、金額は2億1,800万円(現在の物価に換算すると、消費者物価指数では約4.5倍になるので9億8,100万円)でした。その後マスコミや国民の批判によって、与党議員も申告せざるを得なくなったものの、自民党議員等は抜け道を用意していました。政治団体を多数造り、政治資金をそちらに移動させ、個人の所得では政治活動支出を雜所得の経費に入れることで赤字にし、歳費と相殺して還付を受けるという構図を作ったのです。しかし、これによって大量の還付申告が出ることとなったことで国税庁が音を上げ、翌年から雑所得の損益通算が禁止されることになりました。(結果的にそれまで副業の赤字で還付を受けることができていた一般庶民への大増税になったという歴史があります。)

自民党は、60年近く前にもまったく同じ問題を引き起こしており、何も変わっていないのは明らかです。自浄作用など期待できるでしょうか?真の問題は、それを許してきた国民にあると思います。政治の腐敗を糾弾し、真に国民生活に寄り添った政治を行う政治家を育てられないのは国民自身の怠惰です。自分や自分の家族とその未来を守るために、政治を知り、意見や要望を反映させる努力をしてこなかった国民の責任でしょう。政治の腐敗も、日本の凋落も、すべては国民自身がまねいているのです。日本沈没はとっくに始まっています。レミングの死の行進は実際には事実ではなく都市伝説のようですが、ムラ社会から脱却できない日本人の未来は果たしてどうなるでしょう。

企業では、従業員は雇用されているので、経営者や上司の指示に従う必要が有りますが、それでも法律の下であり、違法な業務命令には従う必要はありません。しかし、違法行為に手を貸したため罪に問われる従業員もいます。日本は主権在民であり、国家の主権は国民にあります。政治家に雇用されたり支配されているわけではありません。公僕である公務員や政治家、大臣は国民生活をより良くするために存在するのです。そうでない政治家や犯罪を犯した政治家にダメ出しをしないのは国民の怠惰であり、彼らに手を貸しているとも言えます。それでも国民が罪に問われることはありません。しかし、国民生活を脅かす政治家を許してきた怠惰のツケを払うのは、国民自身とその子供世代なのだと強く認識すべきです。

※1:日本の去年1年間の名目GDP ドイツに抜かれ世界4位に後退(NHK)

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240215/k10014358471000.html

※2:ドイツで極右政党「AfD」に対し…5週連続抗議デモ EU離脱=“デグジット”党首が主張(テレ朝ニュース)

https://news.tv-asahi.co.jp/news_international/articles/000336929.html

※3:世界競争力ランキング2023で過去最低となった日本(集英社オンライン)

https://shueisha.online/culture/186063

※4:我が国における総人口の長期的推移(総務省統計データ)

https://www.soumu.go.jp/main_content/000273900.pdf

※5:国際比較でみる高齢者(総務省統計局)

https://www.stat.go.jp/data/topics/topi1135.html

※6:労働時間 (Hours worked)(OECD主要統計)

https://www.oecd.org/tokyo/statistics/hours-worked-japanese-version.htm

※7:第55回国会 衆議院 大蔵委員会 第16号 昭和42年5月23日(国立国会図書館国会会議録検索システム)

https://kokkai.ndl.go.jp/simple/detail?minId=105504629X01619670523&spkNum=158&current=1#s158

以上

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