大谷フィーバーの影で静かに進む日本沈没
エス・アイ・エム
代表コンサルタント(認定心理カウンセラー)
佐藤 義規 氏
連日、大谷翔平選手のロサンゼルス・ドジャースへの移籍が大々的に報じられ、多くの日本人が嬉々としてこのニュースを歓迎しています。日本人でありながら、アメリカのプロスポーツリーグで、アスリートとして世界最高レベルの評価を得て、世界中で歓迎されていることは、同じ日本人として嬉しくないわけがありません。これほど明るいニュースを今の日本にもたらす大谷翔平選手は、スポーツ界に留まらず、すべての日本人の誇りともいうべき存在であると思います。
一方で、肝心の日本(国)ですが、その凋落ぶりは歯止めが効かないようです。スイスの国際経営開発研究所(IMD)が毎年発表しているDigital Competitiveness Ranking 2023(世界デジタル競争力ランキング2023)において、日本は昨年の29位から更に順位を落とし、63ヵ国中32位(※1)と過去最低順位を更新し続けています。国民生活に直結する賃金についても、最低賃金の伸びはOECD平均の3分の1未満(※2)、賃金上昇率の国別ランキングで33位(※3)、平均賃金においても25位(※4)と、もはや先進国と名乗ることすらおこがましいレベルです。
経済面においても、エコノミック・アニマルと揶揄された日本はすでに過去の話です。国際通貨基金(IMF)によると、名目GDP(国内総生産)において、2023年度中にはドイツに抜かれて4位が確定する見込み(※5)で、2026年には更にインドにも抜かれると予想されています。
また、「モノ作り日本」と誇っていた製造業も、今は昔。多くの製造分野で中国や韓国などの企業が市場の主導権を握っているのが現実です。
日本の全製造業における売上高の約20%を占める自動車製造業においても同様です。全世界の自動車販売に占める電気自動車の割合は19%を越え(※6)、今や世界の潮流は電気自動車です。イノベーション理論でいえば、電気自動車は既にアーリーマジョリティの段階に差し掛かっていると言えます。以前は日産ルノーグループがメーカーランキングでベスト10入りしていましたが、今や日本メーカーはベスト10圏外です。大きなマーケットチャンスが見込まれる電気自動車ですが、日本メーカーの現状を知ると悲観的にならざるを得ません。自動車メーカー製造台数世界第1位のトヨタの豊田前社長は、以前テレビCMなどで「BEVだけでなく、ハイブリッドや水素燃料電池などすべてに全力で取り組む」という全方位戦略を訴えていました。しかし、巨大企業のトヨタといえどもすべての技術開発に全力で取り組むなど、リソース面からも経営面からも不可能です。水素自動車や電気自動車も開発をしているとはいえ、いまだにガソリン車とハイブリッド車がトヨタのメイン商品である以上、稼げるメイン商品でできるだけ長く利益を得たいというのは当然のことでしょう。それゆえ、「未来への備え」という点で、大きく評価を下げたと言えます。(※7)
自動車産業が最大の献金元である自民党にしてみれば、日本メーカーの強みを後押しするような政策を進めていくことになるわけです。そこに長期的な国家ビジョンや国家戦略はありません。こうした構図がある以上、電気自動車普及のための法律を含めた環境の整備について、後れてしまうのは当然とも言えます。今や電気自動車普及の鍵となる充電スタンドは減少傾向となっており、日本での電気自動車普及の条件となる環境整備の遅れは取り返しがつかないところまで来ています。すでに中国メーカーはEVシェアを広げるために脅威的な低価格での販売を計画している(※8)と報道されている中で、果たして日本の自動車産業の打開策はあるのでしょうか。自民党安倍派のパーティ券裏金問題が取りざたされていますが、政策立案が利権や裏金が起点では将来の国のビジョンや展望は描けないでしょう。そうした目先の「金」ではなく、未来を見据えた長期展望や国家戦略がなければ、この国は衰退の一途を辿るだけです。
冒頭に触れた大谷翔平選手は、自身の年俸の97%を後払いにする契約をしたそうです。これにより所属チームのロサンゼルスドジャースは、豊富な戦力獲得資金を活用することで、有力選手の獲得に向けて動けるようになりました。これで有力選手の獲得に成功すれば、ドジャースの来季を含めた近い将来、ワールドチャンピオンという目標を達成するだけでなく、連覇をも可能とするようなチームを構築できる可能性が大きくなったといえます。これはまさにチームを優勝させるための大きな「戦略」でしょう。
日本の政治の世界に、果たして「大谷翔平」は誕生するでしょうか?
※1:Digital Competitiveness Ranking:世界デジタル競争力ランキング(IMD:国際経営開発研究所)
https://worldcompetitiveness.imd.org/countryprofile/JP/digital
※2:日本の最低賃金の伸び、OECD平均の3分の1未満(日本経済新聞)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA112IJ0R10C23A7000000/
※3:世界の賃金上昇率国別ランキング(GLOBALNOTE)
https://www.globalnote.jp/post-17059.html
※4:Real average annual wages(実質平均年収):(OECDのAverageannualwagesより)
https://stats.oecd.org/Index.aspx?DataSetCode=AV_AN_WAGE
※5:GDP規模で日本は4位に転落、ドイツに抜かれる-IMF23年予測(Bloomberg)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2023-10-24/S30N7CT0G1KW01
※6:World EV Sales Now 19% Of World Auto Sales!(CleanTechnica)
https://cleantechnica.com/2023/08/02/world-ev-sales-now-19-of-world-auto-sales/
※7:「未来への備え」世界ランク、トヨタ2位から10位に後退(産経新聞)
https://www.sankei.com/article/20230516-3VGDKKMSRNLZ5AGY2O7IWVH3VY/
※8:脅威的な低価格でEVシェアを広げる中国、今後10年は業界のけん引に(EE Times)
https://news.yahoo.co.jp/articles/9be6c998a6d9f40f025174e8408ea604edca8539
以上
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