ジャニーズ「性加害問題」の今さら感と日本の陋習(ろうしゅう)

エス・アイ・エム
代表コンサルタント(認定心理カウンセラー)
佐藤 義規 氏

連日、故ジャニー喜多川氏の性加害問題(※1)が報じられています。個人的には今さら感のある問題なのですが、それが今大きなニュースとして取り上げられているのは、つまりはマスコミがこの問題を60年以上も放置してきたからに他ならないということでしょう。60年で(少なくとも)数百人もの児童虐待・性加害の被害者を出したこの問題は、歴史的にも類を見ない驚愕の犯罪なのですが、決して単なる一犯罪者、一芸能事務所の問題ということに留まらない、日本社会の典型的且つ最悪な陋習(ろうしゅう)事例だと言えるでしょう。

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ジャニー喜多川氏の性癖については、1964年から東京地方裁判所で行われた芸能学校の新芸能学院とジャニーズ事務所の間での金銭トラブルに関する口頭弁論(※2)で初めて明らかになっています。マスコミが初めて報じたのは、1965年の『週刊サンケイ』(3月29日号・産経新聞出版局)ですが、その後も1967年に『女性自身』(1967年9月25日号・光文社)が「ジャニーズをめぐる“同性愛”裁判 東京地裁法廷で暴露された4人のプライバシー」というタイトルで4ページにわたって報じています。1981年には、『週刊現代』(1981年4月30日・講談社)が、「たのきんトリオで大当たり 喜多川氏が『元フォーリーブス北公次の禁断の半生記』(データハウス)を出版し、姉弟の異能」という記事で、ジャニー氏に体を触られたという匿名の元タレント証言に触れていますし、1983年には『噂の真相』(1983年11月号・株式会社噂の真相)が「ホモの館」として渦中の合宿所の写真を掲載しています。そして、1988年には、「フォーリーブス」のメンバーだった北公次氏がジャニー氏から自らが受けた性被害を赤裸々に綴ったのです。しかし、この件を取り上げたのは、『アサヒ芸能』、『週刊文春』、『FOCUS』、『週刊大衆』、『微笑』などの週刊誌のみで、新聞やテレビなどで取り上げられることはありませんでした。そして、1999年10月から14週連続で大々的に報じた『週刊文春』のキャンペーン報道がきっかけとなり、2000年4月に国会の衆議院「青少年問題に関する特別委員会」にてこの問題が取り上げられました。(※3)

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しかし、事件として捜査に進むことはなく、ジャニーズ事務所らが記事を名誉毀損だとして訴えた裁判でも、2003年5月15日に東京高裁において「セクハラに関する記事の重要な部分について真実であることの証明があった」と、ジャニー氏の性加害が認定された(※4)にも関わらず、新聞・テレビは黙殺し、事務所に対する調査などにも発展しませんでした。そして性加害が認定されたあとも、ジャニー喜多川氏による性加害は続くこととなり、2023年3月7日にBBCが「Predator: The Secret Scandal of J-Pop(邦題:J-POPの捕食者:秘められたスキャンダル)」と題したドキュメンタリーを放送し、それが起点となり初めて日本の新聞やテレビも動き始めましたのです。しかし、加害者であるジャニー喜多川氏はすでに亡くなっており、彼が犯罪者として裁かれることはありませんでした。被害者は少なくとも数百人に及ぶと言われており、歴史に残るほどの驚愕の事件です。未だに犯罪者の名前を冠にしているジャニーズ事務所の当事者としての認識も酷いものがありますが、日本のマスコミの扱い方にも呆れます。半世紀以上もの長きにわたって児童虐待を続け、被害者数も数百人に及ぶという歴史的事件という事実に見合うような扱いをしているでしょうか?問題を矮小化しているとまでは言いませんが、少なくとも歴史的犯罪であるという扱いはされていないと思います。この一大児童虐待・性加害事件は、Netflixで2022年にドラマ化された英国のジミー・サヴィルによる性的虐待事件と並び記されるべき歴史的事件でしょう。(※6)

しかし、この問題をめぐるこれまでのマスコミの姿勢は既視感のあるものです。伊藤詩織さんの性暴力事件なども同様でした。マスコミが権力者や影響力のある人や組織に忖度し、本来伝えるべきことを伝えないのは、ジャーナリズムではありません。「森友学園」「加計学園」「桜を見る会」を巡る報道などでも見られたものです。民主主義国におけるジャーナリズムは、主権者が正しく判断し責任を持って行動するために必要な真実の情報を提供する役割が求められているのです。特に記者が独自の調査・取材で掘り起こし明らかにする「調査報道」は、ジャーナリズムの中でも特に大きな意味を持っています。発表されたことや用意されたものだけを伝え、本来国民が知るべき情報を調べ伝えないのは、ジャーナリズムとは程遠い御用マスコミでしかありません。

一方で、今回の問題について、ジャニーズファンはもちろんのこと、一般市民の認識も単なる芸能スキャンダルレベルの他人事という認識ではないでしょうか?これは、日本社会の陋習(ろうしゅう)とも言うべき特質であると感じています。「見て見ぬふり」、「他人事」で当事者意識が無く、想像力も欠如しているのです。当事者ではないので、問題を真剣に捉えられず、他人事なので、無責任な発言をしがちです。自分には関係ないので、積極的に関わろうとしません。弱者への影響や被害の想像ができず、そのために発言や行動が人を傷つけることもあります。また、社会的強者や有名人に対して盲従する傾向が強く、時には「寄らば大樹の陰」で、自分の倫理観や価値観よりも優先するのです。こうした姿勢は結果的に社会全体の倫理観を損ない、人の結びつきを弱め、弱者を追い詰め、最終的には自分の首を絞めるだけでなく、子供や子孫にも悪い影響を残すことになります。

こうした陋習は、企業組織の中にも根付いています。放置すると上司の顔色をうかがうだけの無能集団となり、悪い報告は隠し、耳障りの良い情報しか上がらなくなります。戦時中の日本軍が典型例でしょう。組織のフレキシビリティーが低下し、経営判断を誤るリスクが高まり、徐々に競争力や外部環境への適応力を失うことになっていくのです。

※1:ジャニー氏性加害問題 事務所の隠蔽体質と元Jr.達の告白ビデオ(TBS NEWS 報道特集)

https://youtu.be/3A0clto0AnE?si=Le_is9-mTTQy72t4

※2:ジャニー喜多川氏に向けられた具体的な性加害疑惑 = 約60年にわたる証言の歴史(The HEDLINE)

https://www.theheadline.jp/articles/815
※3:ジャニーズ性加害報道、雑誌や書籍の追及はなぜ見過ごされたか(弁護士ドットコム)

https://www.bengo4.com/c_18/n_15987/

※4:なぜ東京高裁は「ジャニーズ性加害」を「事実」と認定できたのか 1999年文春報道の裁判(弁護士ドットコム)

https://www.bengo4.com/c_18/n_15990/

※5:「J-POPの捕食者:秘められたスキャンダル」Predator: The Secret Scandal of J-Pop(BBC Two)
https://www.bbc.co.uk/programmes/m001jw7y (Original)

https://youtu.be/zaTV5D3kvqE?si=OvzfZ5GeuGZ6VlII (日本語字幕)

※6:BBC元人気司会者による性的虐待、プロデューサーは「ひとりにするな」と(BBC NEWS)

https://www.bbc.com/japanese/35686505

※7:伊藤詩織さんの性被害、元TBS記者への賠償命令が確定 最高裁決定(朝日新聞)

https://www.asahi.com/articles/ASQ7862ZPQ78UTIL02V.html

以上

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