消えた年金問題を忘れ、ポイントに釣られマイナンバー推進
エス・アイ・エム
代表コンサルタント(認定心理カウンセラー)
佐藤 義規 氏
「消えた年金問題」を覚えていますか?(※1)
2007年、第一次安倍政権下で起きた国民生活を揺るがす大きな問題です。5,000万件を越える持ち主不明の年金記録の存在が発覚し、その後も次々と問題が明らかになった結果、2009年の総選挙で自民党が大敗し、政権交代へと繋がる大きな原因にもなりました。杜撰な管理体制だけでなく、年金保険料の着服問題なども発覚した社会保険庁は解体され、日本年金機構へと生まれ変わり(?)ました。しかし、政権交代まで引き起こした「消えた年金“記録”問題」も、実は未だに解決していません。
この「消えた年金記録問題」を簡単に解説すると、本来年金が紐づけられる個人の番号は一つであるべきですが、この番号を複数持つケースがあったことに起因しています。現在の年金記録は、個人に一つの基礎年金番号で管理されていますが、1986年3月までは、厚生年金、公務員共済年金、国民年金と制度が分かれており、加入する制度が変わると新たな番号が付されていました。これが法改正により1986年3月から20歳以上60歳未満の人は全員国民年金(基礎年金)に加入することとなり、同時に生涯を通じて基礎年金番号という一つの番号に統一されたわけです。(発番は1997年1月から)これにより、転職や、起業、家業を継ぐなど職歴を重ねても、生涯を通じて番号が変わることなく、年金記録に齟齬が生じにくくなったわけです。(※2)
しかし、それ以前の年金記録を基礎年金番号に統合しようとしたところ、完全に統合できないケースが5,000万件以上も発生し、これらが宙に浮いていたことが発覚しました。これが「消えた年金記録問題」です。この問題の発覚後、2008年から2012年にかけて約230万人の年金受給者の年金額が修正され、過去に遡って一時金で支払われた年金額は約1兆6,000億円にのぼりました。記録が判明した件数は3,012万件で、そのうち年金受給に結びついたのは1,771万件、すでに亡くなられていたり、過去の一時金として受け取り済みのため、年金受給権がないものが1,241万件です。亡くなられていた場合は未支給年金として遺族に支払われましたが、それ以外に今なお2,000万件ほどの記録が未解決となっているのです。(そのうち、約840万件は年金特別便への回答が無いため持ち主が不明で、約920万件がまったく手掛かりがない記録。この場合は、本人が証拠を探すしかありません。)
つまり、「消えた年金記録問題」の約4割が解明が困難(事実上の打ち切り)になっているということです。安倍元首相の「消えた年金問題は最後の1人まで解決する」との発言はいったい何だったんでしょうか?(余談ですが、安倍元首相は拉致被害者を「最後の1人まで取り戻す」と言いながら1人も取り戻せず、福島原発の汚染水は「私が責任者となって完全に解決する」と言いながら7年間何もせず海洋放出しています。安倍晋三氏の根強い人気の素因がよくわかります。)
国民生活の根幹に関わる大問題への対応がこうした体たらくな日本の行政ですが、さらにマイナンバー制度でもすでにやらかしているのは連日のニュースなどでご承知の通りです。(※3)政府は、健康保険証を来年秋に原則廃止し、マイナンバーカードに一体化することを決定しています。(※4)マイナンバーは、これまで法律で社会保障と税、それに災害対策の3分野に利用できる範囲が限定されていましたが、今回の改正法可決・成立で、自動車に関わる登録、国家資格の更新、外国人の行政手続きなどの分野にも拡大されます。これまでマイナンバーを使える行政機関やその内容を新たに追加する場合は、その都度、法律の改正が必要でした。しかし、今後は法律で規定されている3つの分野と、今回新たに定められる分野においては、すでに規定されている事務に「準ずる事務」であれば法律の改正をしなくても省令などで利用の範囲を拡大できるとなっています。6ヶ月前にもマイナンバー制度について書いています(※6)が、あらためてこうした政府の進め方は、国民にとって非常に危険であると警鐘を鳴らしておきます。
また、税府はマイナンバーカードは任意だと強調してきましたが、どこが任意なのでしょう?健康保険証を廃止するというのに強制ではないなどと、詭弁というレベルでは済まないでしょう。
この問題だらけのマイナンバー制度ですが、以下のような疑問が生じないでしょうか?
① すでに国民一人一人に割り当てられた基礎年金番号があるにもかかわらず、なぜ新たなマイナンバーが付与され、利用に関して(マイナンバー)カードが必須になるのか?
② マイナンバー制度ができる前に、2,000億円以上かけて整備した住民基本台帳カード(住基カード)という類似の制度があった(※5)が、なぜそれをドブに捨てて新たな制度を作る必要があるのか?
③ 連日のようにトラブルが発生して謝罪を繰り返しているのに、国民の不安払拭のための見直しや国民的議論をしないのはなぜなのか?
④ ①~③でも明らかなように、マイナンバーカードを強引に進める理由はいったい何なのか?
他にも多くの疑問や首をかしげるようなことがありますが、まずは、これらについて国民一人一人が考えてみるべきではないでしょうか?少なくとも、政府や行政のやろうとすることについて、黙って従う大人しい羊になる必要はないでしょう。主権は私たち国民にあるのです。公務員はすべて国民全体の奉仕者であって一部の奉仕者ではありません。(日本国憲法15条2項)憲法だけでなく、国家公務員法第 96 条第1項にも定められています。(※7)公務員とは、国会議員、大臣、裁判官をはじめ立法、行政、司法の各部に属するすべての職員を含み、かつ、地方公共団体についても、長、議長その他の職員のすべてを含み、広く国及び地方の公務に従事する者のすべてを指します
「公務員には、国民が納得するように働く義務がある」と日本国民は強く認識すべきでしょう。多くの国民が黙って従う大人しい羊になってしまえば、為政者は暴走し、国は破綻します。いいかげん、「お上」意識は捨てるべきです。
※1:年金記録問題とは?(日本年金機構)
https://www.nenkin.go.jp/service/nenkinkiroku/torikumi/sonota/kini-cam/20150601-05.html
※2:公的年金制度の歴史(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/stf/nenkin_shikumi_04.html
※3:マイナンバーカードをめぐるトラブル 健康保険証でも 対策は?(NHK NEWS WEB)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230609/k10014094941000.html
※4:マイナンバーカードと健康保険証が一体化へ 改正法可決・成立(NHK NEWS WEB)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230602/k10014086381000.html
※5:住基ネット 巨額税金消えた2000億円 官民巨大利権受け継ぐマイナンバー(産経新聞)
https://www.sankei.com/article/20160101-SRHWSRGAI5L6HH2PUYNUL5U7RY/
※6:マイナンバーカードは家畜証明書(The Stellar Journal)
https://bit.ly/3VmhN46
※7:公務員服務の根本基準(人事院)
以上
記事の無断転載を禁じます。
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