LGBTやジェンダー・ギャップにみる日本の暗黒未来

エス・アイ・エム
代表コンサルタント(心理カウンセラー)
佐藤 義規 氏

2月1日の衆院予算委員会において、岸田首相が同性婚の法制化を求める質問に対して、「すべての国民にとっても、家族観や価値観や、社会が変わってしまう課題であります」と答えたことで大きく批判されました。(※1)現在、先進7カ国(G7)の中でLGBT関連の法制度が整備されていないのは日本だけです。そうした中でのこの首相発言は、後ろ向きな発言ととらえられてもしかたがないでしょう。その後火消しのために、首相秘書官を更迭し、新たにLGBTの理解促進のための担当を選任しましたが、状況の改善は難しいと言わざるを得ないでしょう。(※2)

遡れば、1月27日の国会では、岸田首相の産休・育休中のリスキリングについての答弁にも批判が集中していました。(※3)この答弁でも岸田首相のおかしな認識の断片が垣間見られたように思います。男性の育休取得は首相の言う「異次元の少子化対策」の中心的課題の一つでした。その前提として、母親が一人で子育てを担うことの問題や産後うつの問題など、育児の過重な負担があったことを忘れたかのような産休・育休中のリスキリング発言は、とても国民の理解を得られるものではありません。

一方で、リスキリング(学び直し)についての認識不足・理解不足も否めないといえます。学び直しには幅広い意味があり、果たしてどのレベルを想定してこのような発言をしたのでしょうか。育児も学び直しも遊びではありませんし、産休・育休は一般的な有給休暇とは異なります。リスキリングを正しく理解していれば、このような発言は出てこなかったと思います。(※4:参考までに筆者のリスキリングに関する記事)

また、世界経済フォーラムが発表した昨年(2022年)のジェンダー・ギャップ指数の日本の順位は、146か国中116位で、とても先進国を名乗れるような結果ではなく、全く改善されている気配がありません。(※5)LGBTや子育て支援、男女の社会的格差といった長期にわたって顕在化している社会問題について、自民党政権の無策と無能が露呈されていると言わざる得ないでしょう。

特にここにきてこうした問題が次々に出てくるところからすると、そもそも岸田首相自身の認識や価値観に大きな問題があるように思えます。LGBTに関する首相答弁よりも、その後の秘書官の「隣に住んでいたら嫌だ。見るのも嫌だ。社会のありようが変わってしまう。国を捨てる人、この国にいたくないと言って反対する人は結構いる。」という差別発言が大きく取り上げられたため、発端となったこの「社会が変わってしまう」という発言が霞んでしまっていますが、この発言そのものが大きな日本の政治課題を端的に現わしていると思います。

10年前の2013年にニュージーランドでは同性婚を認める法律が成立しました。審議の際のモーリス・ウィリアムソン議員によるスピーチでは、「この法案でやろうとしていることは、ただ愛し合う2人に結婚という形でその愛を認めてあげることだ。それだけだ。反対する人々が懸念するあらゆる災厄は起こらない。愛し合う人々の幸せを実現するだけで、それ以外の人々の毎日は何も変わらず続いていく。今この法案に反対している人たちに約束する。明日も太陽は昇る。」と述べました。(※6)まさに岸田首相発言とは180度異なる発言です。ニュージーランドに10年後れたとはいえ、少なくとも「日本の社会も他の先進国同様、何も変わらない。」と答弁すべきだったと思います。時代錯誤も甚だしいのは間違いありません。岸田首相やその周辺は、いつの時代に生きているのでしょう。

首相だけでなく、自民党議員の発言も呆れるものばかりです。昨年6月13日に開かれた自民党議員の大多数が参加する議員連盟の会合で配布された冊子には、「同性愛は先天的なものではなく後天的な精神の障害、または依存症」とされ、ギャンブルの依存症などと同じように「個人の強い意志で依存症から抜け出すことは可能」、「同性愛からの回復治療の効果が期待できる」などとも書かれていました。(※7)

明らかに非科学的であり、人事院がまとめているセクシュアル・ハラスメントに関する人事院規則等からも逸脱する内容です。(※8)

それにもかかわらず、その後も自民党議員の発言はこの冊子に影響されたような内容ばかりです。

今回の岸田首相の答弁を発端として、LGBTなどの性的少数者に政治がどう向き合うかが重要課題に急浮上しているにも関わらず、自民党の動きは鈍く呆れるばかりです。(※9)

LGBTやジェンダー・ギャップだけでなく、このような時代錯誤から逸脱できず、未来が描けない政党が長期にわたって日本の政権を担当していることと、国民がその状況を許容してしまっていることが日本衰退の元凶です。「失われた10年」という言葉がすでに「失われた30年」にまでなり、日本はもはや先進国とはいえないところまで転落しています。このままでは19世紀以降、唯一先進国から脱落したアルゼンチンに次ぐ(否、越える)衰退国家となることは容易に想像できます。世界的な社会進化の波に乗り遅れ、国際的に取り残され、それでも過去の栄光や価値観から脱却できない今の状況が続けば、衰退国家どころか、国としての体制すら維持できなくなる可能性は否定できないでしょう。

※1:岸田首相、同性婚で「社会が変わってしまう」発言「ネガティブな発言のつもりない」【衆院・予算委】(Business Insider Japan)

https://www.businessinsider.jp/post-265355

※2:LGBT担当に森雅子補佐官 岸田首相が方針(日本経済新聞)

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA173V00X10C23A2000000/

※3:育休中の“学び直し”「後押し」から「本人希望すれば」…岸田首相の発言はどう変わった?時系列でみる、育休中の「リスキリング」をめぐる首相の国会答弁(日テレNEWS)https://news.ntv.co.jp/category/politics/6871d992ddf349a589d15b50254d399b

※4:リスキリングとは|導入の必要性と注意点を解説(ManpowerGroup:著者 佐藤義規)

https://www.manpowergroup.jp/client/manpowerclip/hrtraining/reskilling.html

※5:世界経済フォーラム:ジェンダー・ギャップ指数2022(内閣府男女共同参画局総務課)

https://www.gender.go.jp/public/kyodosankaku/2022/202208/202208_07.html

※6:「同性婚で世界がどう変わる?」モーリス・ウィリアムソン(Maurice Donald Williamson)議員のスピーチ

  https://youtu.be/JE7WBKgNzrQ

※7:「同性愛は依存症」「LGBTの自殺は本人のせい」自民党議連で配布(Yahoo!ニュース)

https://news.yahoo.co.jp/byline/matsuokasoshi/20220629-00303189

※8:セクハラに関する人事院規則等(人事院)

https://www.jinji.go.jp/sekuhara/1homu.html

※9:LGBT法案、慎重姿勢の自民 背景に安倍元首相の「言葉」(毎日新聞)

https://mainichi.jp/articles/20230214/k00/00m/010/202000c

以上

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