日本が豊かさを取り戻すために~ 茹でガエルからの脱却 ~

エス・アイ・エム
代表コンサルタント(心理カウンセラー)
佐藤 義規 氏

安倍元総理の国葬をめぐり、連日賛否が交わされています。半数以上の国民が反対していることもあって、英国のエリザベス女王の国葬との比較で、「偽物の国葬」とまで揶揄されています。それでも、これがきっかけとなり、多くの国民が日本の現状を認識し、政治や日本の将来について真剣に考える機会になることを願っています。

2022年4月~6月期の実質GDP(季節調整済み)は、年率換算でプラス2.2%となり、コロナ前に戻ったと楽観視する意見もありますが、国内で生み出された所得であるGDI(実質)は年率でマイナス1.2%で、輸入品価格の上昇が国民生活をより厳しいものにしています。(※1)

バブル崩壊以降、歴代政権の経済回復策は効果を上げているとは言えません。安倍元総理が自画自賛していたアベノミクス期間中の実質GDPの平均成長率は0.9%です。過去に遡って見ると、橋本・小渕政権時代は0.9%で、小泉構造改革時代は1.0%でした。安倍元総理が「悪夢の民主党政権」と批判を繰り返していた民主党政権時代は1.5%と自民党政権よりも数字的には上回っています。しかしながら、どの政権もバブル崩壊前に比べると大差ありません。潜在成長率が低下し続けてきた背景には、人口減少や少子高齢化が大きく影響していることは間違いありません。

しかし、人口減少や少子高齢化は数十年前から予測されていたことです。今日まで改善できないのは、まさに政治と行政の不作為によるものです。また、生産性が伸びていないという要因もありますが、先進国中最下位まで落ちた労働生産性が上がらないのも、やはり政治と行政の不作為によるものと断じざるを得ません。(※2)

政治家や官僚は、国家百年の計を立て、それを実現するために働く人たちであると思います。数十年前から予期されていた問題に対応しなかっただけでなく、醜聞が相次ぐのは、政治家や官僚が国家(国民)よりも私利私欲や保身を優先していることを示しています。国家百年の計(大計)とは、国家における終身計画のことですが、もともとは、人を育てるという思想からきています。国民のために高い志を持つ政治家や官僚は、残念ながらほとんど育たなかったようです。また、国民も政治や国の未来よりも、目の前の楽しみや私利を優先し、人によっては既得権益に頑なにしがみついています。高度成長期やバブル期の過去の幻影を引きずり、多くの国民が漠然とした不安を抱えながらも日本という鍋の中で茹でカエルと化しています。政治家や官僚だけでなく、国民も育っていないわけです。「日本は先進国」、「技術立国」、「自由な国」、「成熟国家」などという幻想やマスコミの刷り込みを未だに疑いもしない国民は少なくありません。これらが幻想であるという事実やデータが数多くあっても疑いもしません。「日本スゴイ!」的な報道やテレビ番組、ネットニュースなどが後を絶たないからです。しかし、家電量販店に行けば、中韓製品の売り場面積が年々広くなっているという事実の前で、「日本スゴイ!」には違和感を持つはずです。少なくとも、茹でカエルでなければ、日本の凋落ぶりが目に見える形で目の前にあることに気付くでしょう。

人口減少という大きな足かせがあるなかで、潜在成長率を回復させようとするなら、1人当たりのGDPを引き上げていく以外ありません。働き手1人1人の生産性を向上させるためには「人への投資」が必要不可欠です。国と企業が協力して「スキル教育(学び直し:リスキリング)」を広く普及させることが必須です。岸田政権は2022年6月の「経済財政運営と改革の基本方針」において、「分配」よりも「成長」に重点を移し、「人への投資」を促進していくという大きな方向転換をしました。(※3)今後3年間で4,000億円を充て、デジタルなど成長分野への労働移動で100万人を支援するという内容です。しかし、3年間で4,000億円はあまりにも少なく、先進国の中では最低水準です。日本の職業訓練に関する財政支出は、GDP比でわずか0.01%程度にすぎず、EU諸国と比べて一桁違う水準で、個人主義の国アメリカの3分の1です。(※4)

企業による人への投資額も日本はGDP比で0.1%にとどまり、米国やフランスなどに比べて低いだけでなく、更に低下傾向にあります。(※5)これでは、日本の生産性が他の先進国に勝ることなど夢のまた夢でしょう。人への投資額の差が、潜在成長率の差に繋がるのは明らかです。OECDのデータでは、実質GDP(対2019年Q4)の世界平均が104.22%、中国が111.5%、米国が103.48%であるのに対して、日本は100.36%と明らかに差がでています。

日本の生産性を改善する方策は極めて単純です。キーワードは「社会人の学び直し」です。日本企業は従業員の教育としてOJT(職場内訓練)を重視してきましたが、今後は企業の外でも通用するスキルや知識が欠かせなくなることは明らかです。日本のように労働人口が急速に減少する国では、働き手1人1人が自らの能力を高め、生産性を上げていくしかありません。これが持続可能な経済・社会を維持するため、すなわち、日本という国が百年先も残っていくための方策ということになります。これは、OECDの提言(※6)にも明確に書かれています。国と企業がともに労働者のスキル教育の環境を整備し、働き手1人1人が学び直しにより時代の変化に適応できるようになれば、日本は再び豊かさを取り戻すことが可能となるでしょう。

※1:2022年4-6月期四半期別GDP速報(内閣府)

https://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/sokuhou/files/2022/qe222/pdf/gaiyou2221.pdf

※2:国際的にみた日本の時間当たり労働生産性(公益財団法人日本生産性本部)

https://www.jpc-net.jp/research/assets/pdf/international_trend_summary2021.pdf

※3:経済財政運営と改革の基本方針(閣議決定:経済財政運営と改革の基本方針2022)

https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/2022/2022_basicpolicies_ja.pdf

※4:新型コロナウイルス感染症拡大後のあるべき日本の労働政策の方向性:社会支出分野における人口一人当たりの公的支出額(2017 年)(財務総合政策研究所)

https://www.mof.go.jp/pri/publication/research_paper_staff_report/staff01.pdf

※5:賃金・人的資本に関するデータ集(内閣官房)

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/kaigi/dai3/shiryou1.pdf

※6:OECD 経済審査報告書(日本:2021 年 12 月)https://www.oecd.org/economy/surveys/Japan-2021-OECD-economic-survey-overview-japanese.pdf

以上

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