旧統一教会問題に見る日本人の愛国心と日本の未来

エス・アイ・エム
代表コンサルタント(心理カウンセラー)
佐藤 義規 氏

連日旧統一教会問題がマスコミを賑わせていますが、政府与党の動きは鈍く、警察や検察の動きも見えてきません。政府は閣僚や議員と旧統一教会の関係は「調査を行う必要はない」とする答弁書を閣議決定し、自民党も「党とは組織的な関係はないことが確認できた」と述べるだけです。その後、マスコミに関係を指摘された閣僚や議員は、「統一教会とは知らなかった」、「政治活動の一環で、自身は関係ない」などの釈明とともに「今後は適切に対応する」といった曖昧な発言に終始しています。「一切の関係を断つ」、「旧統一教会について徹底的に調査追求する」、「被害者救済のために何かをする」といった発言が一切聞かれないのには違和感しかありません。一方で、報道状況について、安倍元総理銃撃事件の山上徹也容疑者の思うツボじゃないか、ヒートアップすると容疑者の目論み通りになるなどといった意見には違和感を感じます。被害者が多数いる以上、問題として報道されるべきですし、報道内容が事実に反しているというのであれば、誤りを指摘し、反論すればよいだけです。問題は、「容疑者」ではなく、国民がこの事件をどう理解し、判断するかでしょう。

ユリウス・カエサルは「ほとんどの場合、人は自分が望んでいることを喜んで信じる」(一般的には「人は自分が信じたいものだけを信じる」とされています。)と言っています。これは、人は事実やデータに基づいたものではなく、個人や所属するグループの損得、感情の快不快に大きく左右されることを意味します。政治問題に限らず、ビジネスや社会生活においても同様です。所属するグループの損得が基準なら問題ないと思うかもしれませんが、ここに時間軸や規模が入るとそうとは言えなくなります。短期的に利益となっても、長期的には損失につながるケースや、所属する小さなグループ(例えば部署)にとっては利益であっても、それを含む大きなグループ(例えば会社全体や社会)の視点では違うというケースもあります。こうした人の脳のクセを理解していないと、気付いたら自分の価値観とまったく異なったり、ルールに反する行動を取っていたということにもなりかねないのです。過去の多くの不正事件がそれを物語っています。

人は明確な意思や価値観を持っていない場合、周りが評価している人や似たような属性(年齢・性別など)の人の真似をしたり、発言力や権威のある人に従うようになります。ファッションや趣味であれば、芸能人やユーチューバーなどといったインフルエンサーの真似をしても実害はありませんが、政治や社会生活に関わることはそうはいきません。しかしながら、歴史的に見ると、大衆が独裁者や先鋭的な組織に扇動されてしまった例は少なくありませんし、日本においても戦前・戦中に愛国心の名のもとに言論を封殺された例もあります。これからも多方面でインフルエンサーは利用されるでしょうし、マスコミもそうした人たちを取り上げていくでしょう。主体性のない従属的な人が存在する以上、こうした試みは決してなくなりません。

第二次安倍政権以降、広告代理店である電通は一貫して官邸の情報発信にかかわっており、内閣官房の内閣広報室には毎年電通から複数名の社員が送り込まれています。(※1)その対価として、2013年度約17億7千248万2,000円、2014年度約30億8千738万6,000円、2015年度約35億6千348万6,000円もの金額が電通に支払われています。(※2)それ以外にも、五輪関連やコロナ関連、安倍元総理の国葬など巨額の税金が動く際には必ず電通案件と呼ばれる利権が多数存在することは広く知られています。自民党も19年間で100億円を超える額を電通に支払っており(※3)、国民への情報発信という名を借りた情報操作(ステルスマーケティングなど)に力を入れてきているかがわかります。これらによってどれだけの国民が政治的な判断を左右されているかは不明ですが、決して見過ごせない問題であるといえます。 実際、安倍政権は自らの「成果」という虚構を自画自賛し、メディアもそれを報じてきました。しかし、国民の所得は、1997年以降OECDで唯一低下し続けています。1人当たり国内総生産(GDP)は、世界28位(※4)まで落ち、日本の最低賃金の低さはOECD諸国の平均の3分の2以下。失業率の低さは非正規雇用の増加で「盛られた」数字です。他にも日本青少年研究所の高校生調査(※5)やユニセフ(国連児童基金)の幸福度調査(※6)などでも暗澹たる結果です。

これが安倍政権が作ってきた「美しい国」の隠れた実態です。しかし、多くの国民が安倍政権を支持してきたことも事実です。同時に、意図的な情報操作に踊らされ、愛国心の裏返しから隣国を批判してきた人たちは、同時に政権批判や反対意見を発信する人たちに向けて「非国民」や「売国奴」、「国賊」といった言葉を投げつけてきました。旧統一教会が日本人を食い物にして、韓国に毎年何百億円という多額の献金を送金していたことがわかり、さらに安倍元首相や自民党議員がそうしたカルト団体と深く関わってきたことが判明しましたが、そうした言葉は一切聞かれません。やはり、人は「自分が信じたいものだけを信じる」のでしょう。日本人の愛国心とはその程度のものなのでしょうか。それとも、愛国心という言葉は、為政者のために利用されてきただけなのでしょうか。

自分が周りに左右されないようにするためには、正しい情報の下で自分の頭で考え判断するということが大事です。そのためには、コンサルティング会社がやってるように、広く情報を集め、そこから数値化したもの、すなわちデータを分析して答えを導き出すという方法しかありません。「過去の歴史に学ぶ」ということも一つの方法でしょう。日本がこれ以上沈没せずに発展できるかは、どれだけの国民が情報の取捨選択をして、自分の判断に従って行動できるかにかかっているといっても過言ではないでしょう。まずは、有名人だから、親が政治家だから、知り合いだから、人に頼まれたから、挨拶してくれたから、などの理由で投票してきた結果が今の日本なのだと理解するところからでしょう。

※1 内閣広報室に「電通職員枠」? 9年連続採用

https://mainichi.jp/articles/20200727/ddm/041/010/059000c

※2 参議院議員山本太郎君提出安倍政権における政府広報費に関する質問に対する答弁書

https://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/syuisyo/190/touh/t190138.htm

※3 自民、電通へ100億円超 19年間 政党助成金から支出

https://www.jcp.or.jp/akahata/aik20/2020-09-15/2020091501_04_1.html

※4 世界の1人当たり名目GDP 国別ランキング・推移(IMF)

https://www.globalnote.jp/post-1339.html

※5高校生の生活と意識に関する調査報告書-日本・米国・中国・韓国の比較-

http://www.niye.go.jp/kenkyu_houkoku/contents/detail/i/98/ ※本調査はその後国立青少年教育振興機構に移管されたが、調査項目の変更で日本の数値が良く見えるようになっている。

※6 ユニセフ報告書 先進国の子どもの幸福度ランキング

https://www.unicef.or.jp/report/20200902.html

以上

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