ベネフィットの使用はどこまで認めるの?

ベネフィット(福利厚生)は、基本的には法律ではなく、雇用主が働いている人に与える恩恵です。もちろん、ソーシャルセキュリティーのように国で定められたものもありますし、一度与えたバケーションやパーソナルデーについては、州によっては使わなかった場合には買い取りの義務がある、と定められている場合もあります。

基本的には、ベネフィットは、雇用主が従業員に心地よく長く働いてもらうために与えているものであり、ベネフィットの会社負担額は、給料の32%にも及ぶ、という調査もあります。(参考文献:”Benefits as a Percentage of Wages,” by Jim Woodruff, Choron, August 10, 2020)

つまり雇用主が与えているベネフィットは基本的には雇用主が決めるものです。そのため、仕事のオファーを受けたら、お給料だけではなく、その雇用主のベネフィットもオファーを受けるかどうかの重要な要因になることは言うまでもありません。

一般的に雇用主が従業員に与えているベネフィットは、医療保険、歯科保険、バケーション(有給休暇)、シックリーブ(有給疾病休暇)、忌引きなどです。バケーションは従業員が自分の為に使う有給休暇、シックリーブは病気やケガの時に使う有給休暇、忌引きは家族が亡くなった時に使う有給休暇です。

よく問題になるのは、シックリーブを使用する範囲はどこまで認めるのか、ということです。本人が病気、ケガ、健康診断の為に使うのは問題はありませんが、家族の病気などの看病の為に使えるか、という点です。

家族介護休業法(FMLA)という法律では、一年以上勤続して働いた従業員に、一年のうちに12週間まで家族を介護するための休業を認めています。この中で家族とは、「配偶者、子供、親」です。

FMLAでは、子供が生まれた時(子供を産んだ)、養子縁組した子供をもらい受けた時、里子を引き取った時、配偶者・子供・親が深刻な病気・疾病で介護が必要な時、自分自身が深刻な病気・疾病の時に取得することができます。ただし、お給料を支払う必要はありません。(参考文献:”Family and Medical Leave Act,” US Department of Labor

もともと従業員自身が病気・疾病の時に使うために与えられたシックリーブですが、FMLAが制定されてからは、家族のために使うことも容認する雇用主さんが大多数になりました。ただ、使用できる範囲は、日本でいう「一親等」までです。家族と言っても、兄弟姉妹、祖父母、孫、義父母には使用を認めていない雇用主さんが多いようです。

では、忌引きを認められる範囲はどうでしょうか?

やはり、配偶者・子供・親が亡くなった場合には3日、兄弟姉妹・祖父母が亡くなった場合には1-2日、という雇用主さんが多いようです。親や子供にステップペアレント(親の再婚相手)やステップチャイルド(配偶者の連れ子)を入れるか、というのは、雇用主が決めることです。また、流産をした場合に、忌引きを認めるか、という問題もありますが、これについても特に法律の規定はありません。結婚・離婚が多いアメリカでは、ステップの関係までベネフィット使用を認めていたら、雇用主の負担が多くなるので、健康保険の加入にしても、ベネフィットを与える場合には、雇用主さんが枠組みを決めておき、その都度、関係性(一緒に住んでいるのか、など)も考慮して決めるべきです。

(参考文献:“When a Worker is Grieving: How to Handle Everything from Condolences to Time Off,” SHRM, May 18, 2017)

(参考文献:“How Does Bereavement Leave for a Miscarriage Work?,” Cake, June 7, 2021:)

ところで、ベネフィットを受ける従業員からすると、「自分は独身なので、家族がいる従業員に雇用主がたくさん保険の掛け金を負担するのは不公平だ」とか「愛するワンちゃん・猫ちゃんも立派な家族なので、ペットが病気の時にもシックリーブを使えるようにするべきだ」などの不満もでることがあります。

雇用主がベネフィットを与えるとき、「カフェテリア・プラン」と言って、ある程度、従業員が自分でベネフィットを選べるようにできるプランを提供する、という方法もあります。一律に、会社が年金を用意するのではなく、401Kプランのように、従業員に自己年金の機会を与える、フレキシブル・スペンディング・プランを用意し、従業員のお給料から天引きで(無税になるように)病気の時につかえるファンドに貯金をさせる、などの方法があります。(参考文献:“Cafeteria Plan,” Investopedia, June 29, 2020)

雇用主さんとしては、お給料の30%以上ベネフィットにお金を使っているのですから、一番コストが低く、かつ従業員の方に一番喜んでもらえるような方法を考えていただきたいと思います。

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