国際結婚とアメリカの確定申告:合算申告の責任とリスク

CDH会計事務所
国際税務コンサルタント
ハラ 基江

国際結婚をしているカップルがアメリカで確定申告(タックスリターン)を行う際、合算申告(Married Filing Jointly)を選択する場合には慎重な判断が求められます。特に、日本とアメリカの税制度の違いにより、思いもしない状況になることがあります。 

日本とアメリカの税制度のギャップ

日本では源泉徴収制度が一般的であり、自ら確定申告を行う機会が少ないため、税務申告の重要性を深く理解していない人も少なくありません。ふるさと納税をしたことがある人は確定申告の経験があるかもしれませんが、アメリカの税制度との違いから、以下のような認識のズレが生じることがあります。

確定申告をパートナーに任せがち

アメリカでは毎年確定申告を行う必要がありますが、必ずしもパートナーが税務に詳しいとは限りません。しかし、日本から来た人の中には税務手続きに慣れていないことから、結果的にパートナーに任せることが多くなる傾向がみられます。

日本の財産の未開示

日本に銀行口座や投資口座を持っている場合、それらの情報をアメリカの確定申告で適切に開示する必要があります。しかし、申告時にその重要性を認識せず、未開示のままとなってしまうことが少なくありません。

FBARやFATCAの報告義務の認識不足

日本にある資産が一定額を超える場合、アメリカ財務省あるいは国税局に対して報告義務(FBARやFATCA)が発生します。これを怠ると高額なペナルティが課される可能性があるため、注意が必要です。 

合算申告と個別申告の違い

タックスリターンを行うときには自分の婚姻状況に合わせた申告形態を選びます。結婚しているカップルは必ずしも合算申告を選ぶ必要はなく、個別申告(Married Filing Separately)を選択することも可能です。なお、既婚者が単独で申告する場合でも、“Single”の申告形態は選べません。“Single”は独身者のための申告形態です。 

合算申告のメリットとデメリット

メリット

  • 税額控除の適用範囲が広く、節税効果が高い場合が多い。

デメリット

  • 互いの収入や資産について責任を持つ必要がある。

  • 日本の財産を相手に開示する必要が生じる。

個別申告のメリットとデメリット

メリット

  • 相手に自分の収入や財産を開示する必要がないため、信頼関係が不安定な場合や離婚を視野に入れている場合に適している。

デメリット

  • 税額控除の適用範囲が狭くなり、税負担が増える可能性がある。

コミュニティプロパティ州の影響

アメリカのコミュニティプロパティ州(カリフォルニア州、テキサス州、ワシントン州など)では、婚姻後に取得した財産はカップルの共有財産とみなされます。そのため、日本にある財産や親族が運営する家族経営会社の役員報酬や株式が、共有財産として扱われる可能性があります。

この影響として、

  • アメリカの税務当局から、パートナーが50%の権利を持つと判断される可能性がある。

  • 報告漏れが発覚した際、双方がペナルティを受けるリスクがある。

信頼関係が不安定な場合や離婚を考える際の対応

結婚初期やカップル間の信頼関係が揺らいでいる時期には、以下の対応を検討してください。

個別申告を選択する

  • 日本の資産を開示したくない場合、個別申告を選ぶことができます。ただし、税負担が増える可能性があるため、専門家と相談のうえで判断しましょう。

財産管理の自立

  • ・アメリカでの生活において、パートナーに依存せず、自分自身で財産管理を行うことが重要です。FBARやFATCAの報告義務を理解し、日本の資産を適切に管理しましょう。

グリーンカード放棄と帰国の計画

  • 日本への本帰国を検討している場合、グリーンカード放棄のタイミングと税務への影響を考慮する必要があります。帰国後の生活設計(資産管理や日本での税務手続き)を含め、計画的に準備しましょう。

具体的な推奨行動 

税務知識を身につける

  • 合算申告を選ぶ場合でも、自分自身がタックスリターンの内容を理解し、パートナー任せにしないことが重要です。

パートナーとの情報共有を強化する

  • 日本の財産や税務についてオープンな話し合いを行い、信頼関係を深めることが重要です。

税務専門家に相談する

  • 国際税務に詳しいプロフェッショナルのサポートを受けることで、申告漏れやペナルティリスクを防ぐことができます。

おわりに

国際結婚をしているカップルにとって、タックスリターンは複雑に感じられることがあると思います。特に、日本に財産がある場合は、税務上のリスクを避けるために慎重な計画と対応が求められます。また、税務や財務管理において自分自身も主体的に関わることは、安心して暮らすために大切な一歩になります。これは国際結婚に限らず、日本人同士のカップルでも同じことが言えるでしょう。お互いの状況を理解しあいながら納得のいく選択ができるよう、情報を共有し、協力し合うことが大切だと思います。

以上

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