アメリカの季節労働者

一年振りに行った、コロラド州のロッキー山脈にあるスキー場には若い子がたくさん働いており、なぜかスペイン語があふれていました。

地元の人の言うには、夏と冬が米国とは逆の南半球のアルゼンチンから、アルゼンチンの夏休みで米国の冬にスキーの好きな大学生がスキー場やその近くの街に働きにくるそうです。日本の若い子が「ワーキングホリデー」に行く感覚で働いているのかもしれません。

アルゼンチンの学生の夏休みの米国での就業の目的は、

「アルゼンチンで大学などの高等教育機関在学中の学生が米国の文化を理解し、英語の能力を高め、相互交流を深めること」

となっています。

アルゼンチンの学生さんがアメリカの短期就労ビザをもらえる条件は、

  • 大学などで学位を取るためのプログラムのフルタイムの学生であること。

  • 米国滞在期間が4か月を超えないこと。

  • アルゼンチンの大学の授業が始まるまでにアルゼンチンに戻ること。

  • 大学の最終学年ではないこと。

  • 米国で仕事をするのに充分な英語力があること。

などです。

(参考文献:  “Summer Work and Travel (SWT) and exchange programs (J)”, U.S. Embassy in Argentina)

因みに、日本人の若い人が参加可能なオーストラリアやカナダなどのワーキングホリデーのプログラムは、「主に18歳~30歳までが対象」ということなので、米国のアルゼンチンの学生さん対象のプログラムの条件の方が厳しいです。(参考文献:「ワーキングホリデーに行ける人、行ける国」日本ワーキングホリデー協会)

スキーシーズンの繁忙期はせいぜい3-4か月なので、その間、働いてくれる大学生はありがたいのでしょう。冬の間は特に物価が高いコロラドのスキーリゾートでは、学生さんたちはホームステーをしたり、数人で安いアパートを借りたりしているそうです。スキーが大好きな学生さんなら、スキー場の近くで働いて、暇な時にはほぼ無料でスキーをできる、となるとさぞ魅力的なことでしょう。

コロラドのスキーリゾートには、ホテルやレストランが連なる街からスキー場まで無料の路線バスが走っています。スキーのリフトチケットも、スキーシーズンのホテル代もとても高いですが、無料バスはこのかき入れ時の観光シーズンにスキー客に来てもらうためのサービスの一環なのでしょう。(もちろん、アルゼンチンの学生さんのようにスキー場で働いている人たちも利用しています。)

しかし、スキー場やホテルで働くのとは違い、バスの運転手さんは大型運転免許証などが必要となるので、簡単にいかないようです。別の街からスキーシーズンだけの季節労働者として、アメリカ人の運転手さんが来て働いており、運転手さんの為の宿舎まであるそうです。そしてなんと、運転手さんたちはスキーシーズンの季節労働が終わると、コロラド州では、失業保険を受け取ることができます。

(参考文献:”Seasonal Employment”,  Colorado Department of Labor and Employment

私の住んでいるイリノイ州では、観光の為のバスの運転手ではありませんが、小・中・高のスクールバスの運転手さんたちは、8月から翌年5月の季節労働者とされており、子供たちがスクールバスで学校に通わない夏休みの2-3か月は運転手さんたちは、失業保険を受け取ることができます。(参考文献:”Illinois extended unemployment benefits to school workers in the summer, and Minnesota should follow suit”, Economic Policy Institute)

本来なら、期間限定の契約社員は失業保険を受け取ることはできませんが、季節労働者が失業保険を受け取れるかどうかは、州ごとに規定が異なります。スキー客の観光収入が大きな州の収入となるため、絶対にスキー場のバスの運転手さんを確保しなくてはいけないコロラド州と同じく、イリノイ州ではスクールバスの運転手さんは特例として失業保険を受け取ることができるようにしないと、誰も働き手がなくなる、ということなのでしょう。受け取れる州では、季節労働者は本人に非がないにもかかわらず、「季節が変わった」ことで「レイオフ」される、とみなされるそうです。(参考文献: “State-by-State Eligibility for Seasonal and Part-Time Workers’ Unemployment Benefits”, Experian, September 4, 2024)

もちろん、スクールバスの運転手さんが夏の間だけサマーキャンプなどで別の仕事をみつけて、ある程度の収入があれば、失業保険を受け取ることはできませんが、失業保険を受け取り、夏はゆっくりする、という人も一定数います。

アルゼンチンの大学生は、初めから4か月の労働ビザで来るのだし、ビザが切れればアルゼンチンに帰っていくので、米国としては失業保険を申請されて、米国人の納めた税金を使われる心配もありませんよね。また、何等かの理由でアルゼンチンに帰国せずアメリカに住み着いてしまっても、英語もできるし、高学歴だし、国境を不法に超えて米国に入って来る、ろくに英語も話せないような人たちとはレベルが違うという訳なのでしょう。

因みに、以前にも書きましたが、米国で失業保険を受け取るのは簡単ではありません。通常の仕事の場合、初めから期間限定の契約の場合は失業保険を受け取ることはできません。自分で辞めた場合、仕事ができなくて解雇された場合にも受け取ることはできません。失業保険を申請して、たとえ一時的にお金をもらったとしても、その後の審査で「受け取り資格がない」となると、もらったお金は返金する必要がでてきます。失業保険をもらえるのは、自分には非がないのにレイオフされた時ぐらいです。

ご興味がある方はこちらもご覧ください。

https://tinyurl.com/45kvy95k

以上

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