アメリカで離婚を考えたら知っておくべき税金知識申告ステータス

CDH会計事務所
国際税務コンサルタント
ハラー 基江 氏

アメリカでの離婚は単に個人間の問題ではなく、法的および財務的な複雑さを持つプロセスです。特に、税務はしばしば見落とされがちですが、離婚においては非常に重要な要素です。アメリカ市民と結婚してグリーンカードを取得する多くの日本人は、タックスリターンをアメリカ市民である配偶者に任せがちで、夫婦合算申告をしていても一度も申告書を見たことがないという場合も少なくないでしょう。この記事では、離婚が予見される場合に知っておくべき重要ポイントのなかから「申告形態(Filing Status)」について説明します。

申告形態と年末の婚姻状態

税務申告の形態は、その年の12月31日の法的婚姻状態によって左右されます。夫婦が年末までに法的に離婚を完了していなければ、Filing Statusに夫婦合算申告(Married Filing Jointly)または夫婦個別申告(Married Filing Separately)を選択します。

夫婦合算申告(Married Filing Jointly)は比較的多くの控除やクレジットが利用でき、これにより、夫婦の合計税負担が軽減されるため、通常は最も税金が少なくなる選択肢とされています。

夫婦個別申告(Married Filing Separately)は、一方の配偶者に高額な所得がある、特別な控除が必要、または医療費控除のように総所得に基づく控除を多く受けられる場合に有利とされています。高額所得者の税率が個人単位で計算されるため、合算するよりも税負担を減らすことができます。

夫婦合算申告と夫婦個別申告のどちらが有利かは、夫婦の個々の所得、控除可能な支出、そして税法上の特定のルールによって異なります。離婚協議中の夫婦の場合、この夫婦合算申告のメリットを受けるため、離婚完了までは夫婦合算申告を選ぶ場合もあるでしょう。

離婚が年末までに完了し。12月31日時点で離婚者となった場合は、独身(Single)または特定世帯主(Head of Household)を選択します。もはや「Married」のステータスを使うことはできません。特定世帯主とは、その年度に家計の半分以上を負担している場合に適用され、税率が独身ステータスより有利になります。離婚に伴う申告ステータスの変化により、自身の税金負担額に変化が生じることは認識しておく必要があります。

夫婦合算申告の修正

離婚前に夫婦合算申告を選んできた夫婦の場合、離婚後にも予期しないコミュニケーションが必要になるケースがあります。夫婦合算申告を選択したことは、共同責任を選択したということです。つまり、両方の配偶者が共同で税金の責任を負うことを選択したことになります。これは、一方の配偶者が婚姻中に申告漏れや誤りを犯した場合、もう一方もその責任を問われる可能性があることを意味します。離婚後であっても、婚姻中に夫婦合算申告をしていた場合、その責任義務は両方の配偶者に及びます。

何らかの理由で過年度のタックスリターンの修正が必要になった場合、両者の署名が必要となるため、離婚が成立していても再び協力しなければならない状況が発生します。元配偶者と連絡を取り合い必要な情報を共有しなければならないため、これは多くの場合、望ましくない状況となり得ます。過去の合算申告が原因で、自分の資産について元配偶者に開示しなければならないこともあります。いくつかの州では、婚姻中に得た財産や負債は夫婦共有財産(コミュニティプロパティ)と見なされる法律があります。これに該当する州にはアリゾナ、カリフォルニア、アイダホ、ルイジアナ、ネバダ、ニューメキシコ、テキサス、ワシントン、ウィスコンシンです。

子供の扶養控除

離婚時にしばしば発生する問題として、どちらの親が子供の扶養控除を受けるかという点があります。扶養権を明確にしないまま離婚が成立してしまうと、翌年のタックスリターンで本来扶養権のない親が先に扶養控除を申告しリファンドを受け取ってしまうことがあります。このような場合には、「Tie-Breaker」ルールを用いて解決します。これは、誰がその子供をタックスリターン上で扶養家族として申告する権利を持つかを決定するルールで、子供との同居期間や所得額などがポイントになります。もし適格でない者にリファンドが渡ってしまった場合は、IRSに申し立てを行い、適切な対応を求めることが可能です。

また、離婚協議における財産分与交渉では、両者が自身の財務状況を正確かつ詳細に提示することが求められます。以下のような情報が含まれることが一般的です。これらの情報の提出は、財産分与が公平に行われるように、また、離婚後の経済的な透明性を確保するために重要です。詳細な記録を保持しておくことで、交渉中に必要な資料を迅速に提出でき、離婚プロセスをよりスムーズに進行させることができます。そして、これらは税務申告時にも重要となります。 

1. 銀行口座の情報:

  • 個人口座および共同口座の残高

  • 開設日と取引履歴

2. 投資記録:

  • 株式、債券、相互基金、その他証券の保有情報

  • 投資口座の評価額

  • 購入日と購入価格

3. 不動産資産:

  • 住宅、土地、その他不動産の所有権情報

  • 購入日と購入価格

  • 現在の市場価値

  • 抵当情報やローン残高

4. 退職金とその他の退職口座:

  • 401(k)、IRA、その他退職口座の詳細

  • 口座の評価額

  • 拠出額と拠出日

5. 個人及び共同の負債:

  • クレジットカードの負債

  • 個人ローン、自動車ローン、学生ローン

  • その他の負債額と負債の詳細

6. その他の資産:

  • 自動車、宝飾品、アート作品、その他価値ある個人財産

  • 購入日と購入価格

  • 現在の推定価値

離婚が予見される場合や別居が始まる場合は、税務に関する知識を事前に身につけておくことが、将来的な問題や不便から自己を守るために非常に重要です。税務の専門家と協力し、自身の財務状況をしっかりと理解して、必要に応じ適切な措置を検討してください。

参考文献

https://www.irs.gov/pub/irs-pdf/p501.pdf

以上

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