過去に学ばず、未来を見ない日本人

エス・アイ・エム
代表コンサルタント(認定心理カウンセラー)
佐藤 義規 氏

新年明けてからのニュースのTOP3は、能登半島地震、松本人志氏の性加害疑惑、自民党の裏金疑惑と派閥問題です。実はこの3つのニュースにはある共通項が隠れているように思えます。この共通項こそが、日本をダメにしている大きな要因であり、今の日本人の大きな課題であると言えます。

日本は、阪神淡路大震災、新潟中越地震、熊本地震、東日本大震災など、数多くの地震災害からいくつもの教訓を学んできたはずです。しかしながら、その教訓はまったく活かされていません。連日伝えられる能登の様子はそれを明らかにしています。被災後20日経過しても未だに十分な物資が届いておらず、トイレにさえも不便しているというのは異常でしょう。同じ地震国のイタリアは、過去の震災を教訓にして、大きく改善しています。2009年に発生した地震では、300人以上が亡くなり、約2万8000人がテントに避難しましたが、テントは発災48時間以内(法律で決まっている)に1万8,000人分を整備し、トイレ・キッチン・シャワーなども整備されたということです。(※1、2)日本は2018年からトイレトレーラーの導入が始まりましたが、現在20の自治体に計20台が導入されたのみで、能登にはようやく16台が派遣された状況です。(1月16日現在)イタリアのトイレトレーラーは、水洗トイレ、洗面台、シャワー・エアコンが完備され、スロープになっていて車椅子でも入れるようになっていますが、日本のトイレトレーラーはそうなっていません。また現地への食料などの物資輸送も大幅に遅れましたが、これは、被災してからあわてて物資を集めるという現状があるからです。イタリアでは、緊急物資が常に保管され、災害が発生すると積み込んで直ちに出発できる状態となっており、更にキッチンカーによって、温かい食事が提供されるように準備されています。(※3)イタリア同様に多くの地震災害を経験していながら、この違いは何なのでしょう。

松本人志氏の性加害疑惑ですが、事実関係はまだ明らかになっていませんが、2015年2月に福岡で行われた公開収録イベント『人志松本のすべらない話プレミアムライブin 福岡』において、お笑い芸人の博多大吉が話した内容が事の真相を語っているように思えます。その内容は、『松本から「わかってるな、女の子を用意するように」と命じられたが、松本の悪評が福岡の女性らに広まっており、「飲み会に行ったら何をされるか分からない」、「笑いよりも後に与えられる暴力の方が上回る」などと言われ当初全く女性が集まらなかった。』というものです。(※4)今回の疑惑が事実だとすると、力のあるものが下位の者に強要する、もしくは、下位の者が忖度して力のあるものに諂ったということになります。これは、安倍政権下で起きたモリカケや桜を見る会などの公文書の改ざんや偽証などで見られた忖度問題や、ジャニー喜多川氏の性加害問題を知っていながら報じなかったマスコミと同じ構図のように見えます。

また、自民党の裏金疑惑と派閥問題ですが、これに関しても今さら言うまでもなく、過去からずっと続いてきた問題で、昭和63年のリクルート事件を受けて自民党が平成元年にまとめた「政治改革大綱」において、パーティー規制、政治資金の透明化、派閥解消への決意などが盛り込まれました(※5)が、何も変わっておらず、同じようなことを繰り返しているといえるでしょう。それにもかかわらず、多くの国民がそれを許容してきたわけです。

3つの問題に共通するのは、日本は「喉元過ぎれば熱さ忘れる」を繰り返す、「過去に学ばない人たちの集合体である」ということです。過去に学ばないだけでなく、今起きている目の前のことに「呟く」ことはしても、未来に向けて行動を起こす、現状を変えようと行動に移すということが決定的に欠けているということです。つまり、「深刻な問題の前に思考停止し、現実逃避を繰り返している」のです。これこそが今起きている様々な事件や事象に共通する日本人の課題だと思います。

以前、この「The Stellar Journal」で、「異世界モノに現実逃避する日本人の未来」(※6)というテーマについて書きましたが、このジャンルのアニメ、漫画、ライトノベルは日本以外では韓国で大きなブームとなっています。特にWebtoonと言われる韓国発のスマートホンの縦読みに特化したデジタルコミックは、2023年ですでに11億ドルもの市場規模となっています。(※7)韓国は日本以上の高学歴社会であるため、有名大学を卒業しても就職できないという厳しい現状があります。そのため、以前流行った恋愛、結婚、出産を諦める「三放世代」を越えて、就職、マイホーム、人間関係、将来の夢、さらには自分の人生そのものまで、すべてをあきらめて生きる世代「N放世代」という言葉もあるくらいです。そうした若者を中心とした現実逃避が、Webtoonの大きな市場を形成するという皮肉な結果になっているともいえます。

実はこれは韓国や日本だけでなく、全世界的に進行しているようです。世界的に日本の漫画やアニメ、アニメソングがブームとなり、漫画の世界市場も拡大の一途を辿っています。世界のコミック市場規模は、2022 年に153億5,000万ドルで、2023年は160億5,000万ドル、2030年には223億7,000万ドルにまで成長すると予測されています。(※8)こうした状況も、世界的な市民の「諦め」の一つの現れなのかもしれません。しかし、日本がその先頭を走っているのは非常に残念です。日本の国政選挙の投票率は50%前後ですが、20〜24歳は30%足らずです。先日行われた台湾の総統選挙の投票率は、71.86%で、中でも20代の投票率は90%近かったそうです。同じ世代の30%と90%という違いが今の日本とこれからの日本の未来を端的に現しているように思えてなりません。

連日テレビで「日本の〇〇は素晴らしい」といった外国人が日本を褒める「日本礼賛番組」が放送されています。自信を失った日本人に元気を与える目的なのかもしれませんが、すでに日本は「海外で注目を浴びる国」ではないでしょう。あくまでワン・オブ・ゼム(One of them)つまり、たくさんある国のなかの一つにすぎないということを認識すべきです。外国人が大挙して日本に来るのも、円安で割安な海外旅行ができるからであり、円安=国力の低下であるということを理解すべきでしょう。

※1:「最初から“国中心”で支援を」震災を教訓に避難生活を改善のイタリア 日本との違い【報道ステーション】(テレビ朝日︰報道ステーション)

https://youtu.be/9SF58cijc68?si=ypk9ZprMqZP6T5_Q

※2:能登で活躍「トイレトレーラー」で見た深刻な現場(東京新聞)

https://toyokeizai.net/articles/-/726540

※3:避難所の環境向上に関する実務者検討会中間報告書(長野県危機管理部)

https://www.pref.nagano.lg.jp/bosai/documents/chuukanhoukoku1.pdf

※4:「女を集めろ!」博多大吉がライブで暴露した松本人志の「圧力とドケチぶり」(FRIDAYデジタル)

https://friday.kodansha.co.jp/article/353682

※5:派閥解消、透明化…自民、35年前に掲げた「政治改革大綱」勝手に通信簿(産経新聞)

https://www.sankei.com/article/20240101-KNWPED4455OEPNKSCXYR65G35M/

※6:異世界モノに現実逃避する日本人の未来(The Stellar Journal)

https://bit.ly/3QZ0cyw

※7:ウェブトゥーン(ウェブ漫画)の世界市場 (Global Information, Inc.)

https://www.gii.co.jp/report/qyr1174103-global-webtoons-market-size-status-forecast.html?%EF%BC%89

※8:Comic Book Market Size (Physical Comic and Digital Comic)(Fortune Business Insights)

https://www.fortunebusinessinsights.com/comic-book-market-103903

以上

記事の無断転載を禁じます。

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