マイナンバーカード返納は国への白紙委任
エス・アイ・エム
代表コンサルタント(認定心理カウンセラー)
佐藤 義規 氏
あいかわらずマイナンバー制度に関連するニュースが続いています。担当する河野太郎デジタル相のキャラクターもあって、ニュースのネタには事欠かないようです。「悪夢の民主党政権」と逆ギレ気味に繰り返した安倍晋三元首相を彷彿とさせる河野太郎デジタル相の発言(※1)もまだ記憶に新しいところです。しかし、マイナ保険証の利用率は10月時点で4.49%と、政府が強く進めているにもかかわらず6カ月連続で低下を辿っています。(※2)
他人の情報がひも付けられるなどのトラブルが相次いだことが大きな要因でしょうが、そもそも利用者である国民にとっての具体的メリットや不安解消に対する政府の説明がほとんどないことに起因していると思います。
説明しないのは、やはり国民にとってのメリットや不安解消への具体策がないからではと疑われても仕方がないでしょう。(※3)メリットだけでなく、利用者にとってわかりやすく使いやすい仕組みが求められていると思いますが、どうやらそうなってもいないようです。(※4)
マイナンバー制度については、以前このThe Stellar Journal に書いた「消えた年金問題を忘れ、ポイントに釣られマイナンバー推進」(※5)と「マイナンバーカードは家畜証明書」(※6)で触れました。その際に指摘した問題だけでなく、システムや行政への不信感からカードを返納する方が続出していることが利用率の低下に拍車をかけているようです。しかし、一方でマイナカード返納による問題も存在しますので、ここで整理しておきたいと思います。
マイナンバー制度に反対だから、発行したけれど返納するという方が多数いるようですが、これには問題があります。誤解されている方も多いのですが、「マイナンバー」と「マイナンバーカード」は直接的には関係ありません。「マイナンバー」は、日本国民に自動的に割り当てられる12ケタの数字のことです。2015年10月5日以降は住民票が登録されている人すべてに付番されています。形式上は「日本に住む日本国民全てがマイナンバーを割り当てられている」のです。つまり、マイナンバーは国民一人一人に必ず紐づけられ、すでに自治体や年金、健康保険などで活用されており、マイナンバー法などの法律で付番の拒否はできないようになっていることを理解しましょう。
国民総背番号制度、納税者番号制度、住民基本台帳ネットワークシステム、そしてマイナンバー制度へと日本政府は共通番号制度の導入をはかってきました。(この間、何度も廃案になってきた歴史があります。)もしも共通番号制度の導入に反対するのであれば、2013年のマイナンバー法(番号法/番号利用法)の成立を断固阻止すべきだったのです。
一方、「マイナンバーカード」は公的な身分証明書として利用できる写真付き本人確認書類のことです。ICチップに電子証明書が保管され、公的個人認証サービスや民間サービスなどに活用できます。券面に「マイナンバー」が記載されていますが、マイナンバーとの直接の関係はありません。あくまで「任意」なので取得も返納も自由です。マイナンバーのシステムとはほぼ無関係のカードなので、マイナンバーカードを取得しなくても個人のマイナンバーへの影響はありません。当然、このカードは本人の意思で返納できます。マイナポイント目当てでカード発行した人が多かったようですが、仮にマイナカードを返却した場合でも、受け取ったマイナポイントはなくなりません。また、カードがなくなっても個人に割り当てられたマイナンバーがなくなるわけではありません。これは、前述したように「マイナンバー」と「マイナンバーカード」は直接的には関係ないからです。
しかし、マイナカードを返納した場合はいくつか問題が発生します。
1.顔写真付きの本人確認書類として使えなくなる
運転免許証やパスポートなどの顔写真付きの証明書をもっていない人は、他の手段(健康保険証や住民票などの公的証明書など)での証明が必要です。
2.コンビニでの戸籍証明書や住民票などの各種証明書の取得ができなくなる
市区町村役場の窓口や行政サービスコーナーなどで取得するか郵送で申請する必要があります。
3.紙の健康保険証が廃止された場合、健康保険証として使えない
紙の健康保険証が廃止された場合、医療機関を受診する際に毎年資格確認書を発行してもらう必要があります。
4.マイナポータルで電子申告など一部利用できない行政サービスがある
電子申告(確定申告など)など自宅でできるサービスの一部が利用できなくなる。
5.自分の情報を国や自治体などがどのように使ったかチェックできなくなる
5つの問題があると書きましたが、紙の健康保険証の廃止はまだ確定していませんし、5以外の問題はマイナンバーカードが登場する前の状況に戻るだけです。
一番の問題は、5.でしょう。マイナポータルを利用している人はご存知と思いますが、マイナポータルにマイナンバーカードでログインすると、自分の情報を国や自治体などがどのように使ったかをチェックできるようになっています。しかし、マイナンバーカードを返納するとそれができなくなるのです。前述したように、マイナンバーカードを一度発行してしまうとカードを返納しても本人からシステム上見えなくなってしまうだけで、国民一人一人に付番されたマイナンバーが消えてしまうわけではなく、マイナンバー制度から逸脱するようなことにはなりません。つまり、カードの返納がマイナンバー制度への反対行動にはならないのです。むしろ国を無条件に信用しているという意思表示になりかねないのです。
マイナンバーカードの返納をお考えの方は、是非この点を理解した上で決断する必要があるでしょう。
※1:「お前が始めたんだろ」発言は真っ当なのか…河野太郎氏の言い分を検証した マイナ制度のトラブル批判に反論(東京新聞)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/259297
※2:マイナ保険証の利用率、10月時点で4.49% 6カ月連続で低下(朝日新聞)
https://news.yahoo.co.jp/articles/b96a782b0e6a85cade3a32c2ab2b426e79c85136
※3:マイナ保険証「患者に利点なし」 病院の半数回答、厚労省調査(共同通信)
https://nordot.app/1095624143764718363
※4:「マイナ保険証の顔認証システム」75歳以上の100人中 1人で機械操作できたのは「20人」【長崎県保険医協会 調査】
https://news.yahoo.co.jp/articles/db3b3c3a40ebe5c189dd4c3d2f4454f2c6d8a294
※5:消えた年金問題を忘れ、ポイントに釣られマイナンバー推進(The Stellar Journal)
※6:マイナンバーカードは家畜証明書(The Stellar Journal)
以上
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