異世界モノに現実逃避する日本人の未来

エス・アイ・エム
代表コンサルタント(心理カウンセラー)
佐藤 義規 氏

政治と行政は劣化し続け、ますます日本の将来は危うくなっています。日本の民主主義は進化発展するどころか、年々退化しているようです。戦争放棄という唯一無二の平和憲法に裏付けられた世界に誇れる平和国家が、今や戦争ができる国になってしまいました。最大の問題は、多くの国民がそうした変化に慣らされ、許容してしまっていることでしょう。

2013年8月に当時の麻生太郎副総理兼財務・金融大臣が発言した「ナチスの手口に学べば」という言葉が、まさに今進行していることを象徴しています。安倍政権下から始まった一連の流れは、なし崩し的に目的達成に向け強行していく、まさにナチスの手口といえるでしょう。以下はナチス政権のナンバー2だったヘルマン・ゲーリングやナチスドイツの宣伝大臣だったヨーゼフ・ゲッベルスの発言です。

「小さな嘘より大きな嘘に大衆は騙される」

「嘘も100回言えば本当になる」

「(何者かから)国民が攻撃されると言い、平和主義者は愛国主義が不足し、国を危険にさらしていると非難すればいい。ほかに必要なことはない。この方法はどの国でも機能する」

思い当たる節はないでしょうか?

権力を監視するマスコミやジャーナリストがその責務を十分に果たし、為政者の嘘や隠蔽、暴走を止めていれば、今日のような日本にはなっていなかったことでしょう。圧力や囲い込みなどの意図的な妨害工作にマスコミやジャーナリストが屈してきたことは残念な事実ですが、一番の問題は、多くの国民がそうしたことに無関心だったり、問題視せず、許容してしまっていることです。特に20代・30代といった次代を担う若い世代が現実から目を逸らし、現実逃避しているように思えてなりません。

実は10年以上前から漫画やアニメ、ラノベ(ライトノベル)では、異世界モノ、転移・転生モノと呼ばれるカテゴリーの作品がブームとなっています。wikipediaには、「異世界とは、現代とは異なる、魔法が有効な世界を舞台にした物語。派生ジャンルとして現代から異世界へ行く異世界転移、異世界転生、異世界憑依などがある。」とあります。いわゆるファンタジーのカテゴリーの一つですが、起源は「ナルニア国物語」や「指輪物語」といわれ、RPG(ロールプレイングゲーム)人気やスマホゲームへの進化が人気をさらに加速させてきました。日本だけではなく世界中で人気のある分野と言えます。しかし、日本のブームは他の国のそれとは少々違っているようです。日本には「ロードス島戦記」、「新世紀エヴァンゲリオン」、「十二国記」などといった名作もありましたが、最近の「鬼滅の刃」や「鋼の錬金術師」の大ブームは単なるファン人気というレベルをはるかに越え、社会現象にまでなっています。今やそうしたブームは児童書にまで波及しています。(※1)

ゲーム機やスマホゲームの人気があるとはいえ、これほどまで夢中になっている若者(に限りませんが)が多いのは、現実社会から目を背け、漫画やアニメ、ゲームに逃避していることの現れではないでしょうか。現実の日本はGDPでもドイツに抜かれそうです(※2)し、世界に占める日本のGDPが比較可能な1994年以来最低の5%にまで落ちています。(※3)1位の米国の約5分の1、2位の中国の約4分の1で、1人あたりでOECD加盟38国中20位です。今や経済大国などと胸を張れるレベルではなく、市場でもスマートフォンや白物家電では中国、台湾、韓国製が幅を利かせ、「モノづくりニッポン」も過去の遺物となりました。円安に物価高、さらには増税と日本社会はますます厳しく生き難くなる中、こうした現実逃避ブームは、若者が未来に夢が描けなくなっている現代日本の社会病ともいえるでしょう。夢を描くどころか、正社員になることも難しく、正社員であっても絶えず雇用への不安がつきまとい、副業など仕事を掛け持ちしないといけない状況では、結婚や家族を持つこともままなりません。また、家族の介護問題があったり、子供ができても託児施設が確保できず安心して働けないといったこともあります。老後についても年金破綻や老々介護への不安が付いて回ります。さらには、戦争への不安も日々高まっています。すべては過去20〜30年の政治と行政のツケなのですが、こうした日本社会を覆っている不安感が大きなプレッシャーとして存在しており、それが結果的に現実逃避に繋がる大きな要因になっているといえます。

ゴールドマンサックスのレポートによれば、日本は2075年まで平均成長率は0%台のままで、GDPは7.5兆ドルで、ドイツ、英国、インド、インドネシア、パキスタン、エジプト、ブラジル、メキシコ、ナイジェリアにも抜かれ12位に後退すると予測されています。(※4)この予測通りであれば、経済規模は中国、インド、米国の7分の1程度になり、完全なる没落国家となってしまいます。このような没落国家への不安は、一見個人では解決できない大きな問題であり、贖えないと思うが故に、現実逃避に走ってしまうのでしょう。しかし、だからこそ、国民一人一人が選挙での投票や行政監視といったことに目を向けていかないと、まさに「ナチスの手口」によって現実化してしまうことになります。

日本人は第二次世界大戦敗戦という負の「歴史」を学び、戦後の復興から高度成長へと繋げてきた世界的にも高く評価された国民であったハズです。漫画やアニメ、ラノベ、ゲームなどの趣味や楽しみを持つのはいいですが、現実逃避に明け暮れ、ありもしない異世界での成功や繁栄に明け暮れている場合ではありません。人は誰も、自分が味わっている苦しみに対して、代償となる幸せが得られるはずだと思い込みがちです。奴隷は一生懸命頑張っているから、天国では幸せになれるはず、と何の保証もない「死後の世界」に絶対的な望みを託すというニーチェの「奴隷根性」に通じるものだと思います。現実逃避は気持ちの切り替え以外に何の意味も持ちません。現実逃避するだけではなく、現実社会でも前向きなアクションを起こすことが重要なのです。

※1:GDPでドイツに抜かれる? 日本は今年4位転落の瀬戸際(毎日新聞)

https://mainichi.jp/premier/business/articles/20230111/biz/00m/020/014000c

※2:“ラノベ異世界モノ”は児童書市場も席巻?(ORICON NEWS)

https://www.oricon.co.jp/news/2262242/full/

※3︰世界のGDPに占める日本の割合が最低に(テレ朝NEWS)

https://news.tv-asahi.co.jp/news_economy/articles/000281043.html

※4:The Path to 2075 - Slower Global Growth, But Convergence Remains Intact(Goldman Sachs)
https://www.goldmansachs.com/insights/pages/gs-research/the-path-to-2075-slower-global-growth-but-convergence-remains-intact/report.pdf

以上

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