安倍元首相銃撃事件と日本の未来

エス・アイ・エム
代表コンサルタント(心理カウンセラー)
佐藤 義規 氏

7月8日に起きた安倍元首相の銃撃事件は、世界中を震撼させました。

当初テロも疑われましたが、その後の調べで、宗教団体(世界平和統一家庭連合:旧統一教会)に個人的な恨みを抱えていた犯人が、安倍氏と祖父の岸信介氏がその宗教団体と強い関わりを持っていたと思い込み、犯行に及んだと伝えられています。

一方で、ネット上では、今も陰謀論(安倍元首相がいなくなることで、中露との関係改善ができなくなり、中露敵視を続けざるを得ないようにするためなど)が、まことしやかに語られています。陰謀論の真偽の程は定かではないので、それについては掘り下げませんが、気になるのは、銃撃事件以降、特に安倍氏が亡くなってからのマスコミの論調です。生前の安倍首相の政治手腕や功績について、必要以上に美化され、様々な問題については触れられないことが多いように感じます。(安倍元首相の政治家としての功罪については、ここでは言及しませんが、いずれ歴史的に明らかにされることでしょう。)

事件後は「弔い合戦」や「安倍元首相の遺志を継ぐ」などと言った政党関係者の発言やそれを代弁するコメンテーターの見解など、本来の政策や将来の日本を語るというよりも、国民の感情を煽るような報道ばかりが目につきます。結果的に今回の国政選挙が自民党の圧勝になったことと無関係ではないでしょう。今回の参議院議員選挙の投票率は52.05%で、過去4番目の低さでした。改憲や経済問題ばかりではなく、直面する大きな問題である新型コロナウイルスのパンデミック、気象変動、戦争、人口減少なども争点であったはずです。特に、自公政権下で先進国中最低レベル(途上国並み)にまで落ち込んだ賃金の問題や進行する急激な物価高騰、ウクライナへのロシアの侵攻による国際物流への影響やエネルギー価格の高騰、輸入食料の不足による食料自給の問題など、日々の市民生活に直結した喫緊の課題ばかりで、決して無関心でいられる状況ではなかったはずです。

それでも投票率は上がらず、投票行動もタレント人気投票と変わらなかったり、縁故や地域のしがらみであったり、目先の利益の影響を受けたりと、とても国民一人一人が本当に自分や家族の将来を真剣に考えて投票しているとは思えません。SNSを駆使して活動した政治団体が初の議席を獲得したり、海外から動画投稿で活動していた暴露系ユーチューバーが当選したりと、良くも悪くも従来型選挙とは変わってきたことは確かです。それでも国民の半数は投票すらせず、国民固有の権利を自ら放棄し、自分や家族、身の回りの人たちの生活や社会状況を改善するために動こうとはしなかったのです。

また、政治的な主張に一貫性がなく、政治的能力に疑問符がついた元アイドルの候補者が当然のように当選していることを考えると、投票した人であっても、一部の人の投票行動は、アイドル総選挙のような人気投票イベントと同じ感覚といわざる得ないでしょう。こういった部分を見ていくと、日本人は民主主義といったものを真に理解して実践しているようにはとても思えません。「弔い合戦」や「意志を継ぐ」といった感情的な言葉による扇動やアイドル人気投票イベントと変わらない感覚、それだけでなく、縁故や地域のしがらみ、目先の利益といったものが大きく日本の民主主義の前に横たわっているように感じます。政治家の劣化が語られるようになって久しいですが、これはそもそも国民の民主主義意識の低さに起因しているとしか思えません。結果的に今の政治は直面する深刻な問題に対応できず、日本の国力は落ちる一方で、国際社会での地位もますます低下していくことになります。

今の野党に政権担当能力があるとか、自民党が下野すればすべて解決するなどと言うつもりはありません。しかし、少なくとも一部の野党は今の日本が非常に危機的な状況であることを認識しています。こうした野党が少しでも力を持つことで様々な課題が国民の前で議論される可能性が生まれ、政策の見直しや再検討が可能となります。また、社会的弱者の声も届きやすくなるでしょう。しかしながら、今回の選挙の結果を見ると、多くの国民が真剣に考えることもせず、積極的か消極的かはともかく、結果的に現状維持を選んだことになります。投票しなかった人は、多数派に完全服従ということになるので同じことです。むしろ責任意識がないだけ悪質と言えるかもしれません。

実際には、現状維持ではなく、安倍元首相が描き進めてきた戦前回帰の道を辿る可能性が高いように思えますが、少なくとも、急激な変化を嫌い、思考停止したまま静かに沈没していくことを受け入れたと私には見えます。まさに「茹で蛙」です。

すでにこの国は30年以上沈み続けてきました。この30年で沈下したのは賃金だけではありません。右表のような大きな変化があったことを認識すべきです。現状維持という選択は、もはや滅びの道でしかありません。政治家が国のかじ取りをしていても、それを選ぶのは国民であり、最終的な責任は国民自らが引き受けることになるということが理解できていません。今回の選挙は、様々な意味で、国民自らの責任の理解と行動、それが民主主義の基本であると再認識すべき歴史的ターニングポイントだったように思います。

その後の報道によると、安倍晋三氏の国葬が決まったそうです。(マスコミは報じていませんが、統一教会の元顧問弁護士で自民党議員でもあった高村正彦氏が会長を務めるのが会場となる日本武道館です。)国葬を決めたと発表した岸田首相の説明は、取ってつけた理由でしかなく、結論ありきだったように思えます。記帳台や献花台などを設置する市町村も続々と現れています。なぜ内閣と自民党などによる「合同葬」や内閣と自民党、それに国民有志が共同で費用を支出する「国民葬」ではなく、「国葬」なのでしょう?安倍晋三氏は皇室の一員なのでしょうか?生前安倍晋三氏が関わったとされる様々な疑惑は未だに明らかにされていない中で、あまりにも偏り過ぎのように思います。マスコミの責任も大きいですが、世の中の空気や一時の感情に大きく影響され、客観的に考えたり、判断したりすることができない今の日本人が、果たしてどのような国を作るのでしょうか?この国の未来に大きな不安を感じます。

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