吉野家炎上や楽天ぶっちゃけ値上げに透けて見えるハリボテ体質

エス・アイ・エム
代表コンサルタント(心理カウンセラー)
佐藤 義規 氏

5月上旬、大手牛丼チェーン「吉野家」の「就活生拒否」問題がネット上で「炎上」しました。少し前の4月中旬には、同社常務取締役企画本部長が、早稲田大学での講演で、「田舎から出てきた右も左も分からない若い女の子を無垢、生娘な内に牛丼中毒にする。男に高い飯を奢って貰えるようになれば、絶対に食べない(生娘をシャブ漬け戦略)」という発言をして大問題となったばかりです。(※1)

今回の騒動は、就職活動中の学生が日本国籍であるのにもかかわらず、その名前から外国籍と勘違いされたことで、それを理由に説明会への参加を拒否され、吉野家の差別的な姿勢が糾弾されたというものです。吉野家には、外国人アルバイトが1万人近くいることや、海外での事業展開を論拠に、吉野家は差別企業ではないと擁護している人もいます。しかし、アルバイトと正社員は位置づけが違いますし、外国人正社員が20名程度しかいないこともホームページで確認できます。そこには、「組織の活性化を目的に、外国籍社員の積極的な登用を続けています。」とも書かれており、今回の出来事と表向きの企業姿勢に大きな乖離があったことも事実です。だからといってここで吉野家批判を展開するつもりはありません。どうしてこのような不祥事が、世界中で1,200もの店舗を展開する大きな企業で起きたのかということを推察してみたいと思います。吉野家の経営陣や社内状況を詳しく知る立場にはないので、あくまで公になっている企業情報や報道などから推測するだけですが、2つのことが考えられると思います。

一つは、経営者のビジョンが現場に浸透せず、現場の人間が勝手に説明会への参加を拒否したというものです。担当社員の怠慢も考えられますが、社員一人で参加の可否を勝手に決めているとは思えませんので、やはり人事部門全体の問題だと考えられます。管理者を含めた現場の問題ではありますが、経営者と現場の乖離が生じているということを示しているといえます。風通しの悪い企業に見られるケースです。

もう一つは、企業イメージを良くするためだけに、対外的にウケの良い「宣伝文句」を並べ、体裁を整えるだけのハリボテ体質ということが考えられます。立派なビジョンを並べていながら、現実は遥かに遠く及ばず、場合によっては、いつのまにかビジョンがフェードアウトし、さも無かったかのようになるという場合もあります。多くの場合、ビジョン実現は掛け声だけで、具体的に実現に向けたリソースの投入や経営者自身のリーダーシップ発揮などがない「詐欺」的な例も少なくありません。

「外国籍社員の積極的な登用を続けている」と世の中に向けて発信していながら、実態は外国人(と思われる人)には会社説明会への参加すらさせないというのは、果たしてどちらのケースなのでしょう。そもそも海外店舗が974店舗もありながら、現地採用や国内留学生の採用も合わせて、20名程度の外国籍社員しかいないという事実に驚きます。この数字を見ると、後者のハリボテ体質の可能性が高いと判断されても仕方ないでしょう。

ケースは変わりますが、5月13日に楽天モバイルが、国内携帯の料金プランを見直し、月間1GB(ギガバイト)まで0円だった料金体系を廃止すると発表しました。(※2)女優の米倉涼子さんの「日本のスマホ代は、高すぎる!」というCMが話題でしたが、楽天グループの三木谷会長兼社長は、最大のウリである「月額0円」の料金プランをやめる理由として、「ぶっちゃけ、0円でずっと使われても困る」と発言したことで、ユーザーの反発が起きています。「ぶっちゃけ、0円で使えないのなら他に替える」というユーザーの声も聞かれ、「料金が1GBまで0円だから通信品質が悪くても使っていたけど、値上げするならやめる」という主旨のコメントが多くみられます。楽天モバイルは、携帯電話満足度調査において料金分野では1位でしたが、通信品質分野においては最下位と評価されています。最大のアドバンテージである料金の値上げをすることが結果的にユーザー側からどう評価されるのかが注目されます。

しかし、そもそも0円を撤回すればユーザーの反発を買うことは予想できたことですし、アドバンテージを失うことで、市場からそっぽを向かれるリスクも当然認識していたでしょう。

楽天モバイルのホームページには、「450万を超えるお客様が利用され、各調査においても高い評価を得ています。」と記載されていますが、いずれ0円を止めることを前提にユーザーへの販促を行っていたのであれば、その450万人のユーザーの声には耳を傾けていなかったことになります。今回の値上げは、楽天のモバイル事業に「ネットワーク整備の遅れ」「政府主導の携帯料金引き下げ」「想定以上の赤字」という3つの誤算が生じたことに起因しているという専門家の分析もありますが、どれも予測できたことでしょう。そもそも、事業計画通りにいかなければ、その時点で値上げすれば良い、もしくは、値上げすることを前提に進めてきた販促策だったのではと思えてしまいます。

そうであれば、企業イメージを良くみせるためだけに、対外的にウケの良い「宣伝文句」を並べ、体裁を整えるだけのハリボテ体質といえます。つまり、ドコモ、au、SoftBankの大手3社に比較して劇的に加入者数が伸びているという良いイメージを作るためだけに、0円プランという販売促進策によって「契約数が550万件を突破!」(※3)という体裁(MNO事業は450万)を整えたということになります。一時的な販促策だったとしても、利用者の権利(1GBまで0円)が長期間継続し、ユーザーの満足度に繋がっているのであれば問題はありませんが、短期間のうちに撤回し、既存利用者の料金をもすぐに値上げするという手法が批判につながっているのです。また、「ぶっちゃけ、0円でずっと使われても困る」というトップの発言も大いに影響しているように思えます。そこには、「お客様」という視点が感じられず、経営者の傲慢さが見え隠れするということもあります。

実は、このハリボテ体質の企業は程度の差はあれど意外に多いのです。過去には、業績の水増しによる不正事件やデータの改ざん事件など悪質なケースは社会的事件にまで発展し、マスコミにも大きく報じられ糾弾されました。事件として報じられなくても、顧客の信頼を失って業績が悪化した事例は枚挙にいとまがありません。組織のトップの行き過ぎた業績至上主義がこうした組織風土を産み出す要因となっています。業績だけでなく、顧客目線や、コンプライアンスといったことの重要性を組織に根付かせるのも、トップの役割であり、広義では社会的責任をも負っていると認識すべきです。

※1:吉野家 「生娘をシャブ漬けに戦略」役員を解任

https://www.fnn.jp/articles/-/348876

※2:楽天、携帯料金「0円」を廃止 7月から最低980円(5/13 日本経済新聞)

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC130310T10C22A5000000/

※3:楽天モバイルの契約数、MNO/MVNO合わせて550万件に https://k-tai.watch.impress.co.jp/docs/news/1388121.html

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