ロシア・ウクライナ戦争にみる組織作りの落とし穴
エス・アイ・エム
代表コンサルタント(心理カウンセラー)
佐藤 義規 氏
2022年2月24日にロシア軍がウクライナに侵攻して以降、ウクライナ国内は戦争状態となっており、この原稿を書いている3月18日時点で、未だ解決への糸口が見えていません。この戦争の原因は、2013年11月に親ロシア派のヤヌコーヴィチ大統領がEUとの連合協定をめぐる交渉を停止したことで、EU加盟に賛成する野党と政権の汚職を批判する市民が大規模な反政府デモを起こし、大統領をロシア亡命に追い込んだことに起因しているとも、そもそもベルリンの壁崩壊にまで遡るとも言われています。NATO拡大への危機感なのか、それともソヴィエト連邦崩壊から30年経ち、プーチン大統領が大国復活への野望を果たそうとしたからなのかはわかりませんが、この蛮行は世界中から批判されています。最終的には歴史が決めることですが、多くの尊い命と人々の未来を奪い、生活を破壊し、ロシアとウクライナだけに留まらず世界経済に大きなマイナス影響をもたらす取り返しのつかない大罪を犯したのです。分析や今後の見通しについては専門家に任せるとして、プーチン大統領がこのような蛮行に至った組織的な問題の可能性について、私見を述べてみたいと思います。
ご承知のようにロシア連邦は共和国としての体制を成していますが、その実態はプーチン個人が統治する独裁国家です。ロシア連邦が成立した際に憲法で定められた大統領の任期(1期4年、最長2期8年まで)もプーチン政権下で変更され、2期務めた後で、一時的にメドヴェージェフ大統領を挟んだものの、現在4期目となっています。すでに2036年まで続投するための改憲案も承認されています。(※1)
メドベージェフ大統領時代もプーチンは首相としてその権力を維持していたので、初代エリツィン大統領の後を継いで以降、22年間もその権力を保持していることになります。共産党による一党独裁の中国と体制は異なるとはいえ、その実態は独裁国家であることに間違いありません。この長期にわたるプーチン独裁下で起きたことは、意見の異なるものが排除され、イエスマンだけが残ってしまったということでしょう。Guardian News が伝えたプーチンと閣僚のやりとりの映像を見ると、明らかにプーチンに対して異を唱えられないという様子が見て取れます。(※2)
会社など組織を率いるリーダーにとっては、周りを自分と似た考えや価値観を持つイエスマンだけで固めるというのは、バランス感覚を損なわせ、組織の発展を硬直化させてしまいます。残念ながら人は、自分と似たタイプの人間と群れる傾向があります。そうすることで無意識に自己を肯定することができるので居心地がいいのです。逆に意見の違う人や違った価値観を持つ人を受け入れてしまうと、自分自身の否定に繋がってしまいかねないため、無意識に遠ざけてしまうのです。「類は友を呼ぶ」という言葉がありますが、まさにその通りなのです。プライベートで同じような価値観の人たちとだけしか付き合わなかったとしても、何ら問題はありません。しかし、組織運営に関しては様々な歪みを生み出しかねず、大きなリスクとなります。リーダーがマネジメントを行うにあたり、組織のバランスや柔軟性を保つためには、多様な意見の存在が欠かせません。仮に猪突猛進型のリーダーであれば、冷静に状況を把握しサポートしてくれる部下の存在は不可欠でしょう。また、保守的なリーダーであれば、部下には革新的な人物を置いた方が組織の活性化に繋がるでしょう。
互いの長所と短所を補えるような多様性のある人材を配置することで、組織は柔軟性を保つことができ、発展することが可能となるのです。強い権力を持つリーダーほど、まわりにいるイエスマンたちは、耳心地の良い情報ばかりを上げるようになり、悪い情報は決して伝えようとはしなくなります。これが強いリーダーほど陥りがちな組織作りの落とし穴なのです。プーチン大統領は、22年もの長期にわたって強い権力を構築してきたがために、「裸の王様」になってしまったように見えるのです。プーチン政権下で何が起きているのか実際のところはわかりませんが、様々な情報から判断すると、こうした組織上の問題が根深く存在しているように思えます。側近の粛清や解任が相次いでいるということに、そうした問題が顕著に現れているように思えます。
企業においても、同様の問題を抱えている組織は決して少なくありません。私自身も組織で働いていた頃、同じような問題に直面し、その後組織が崩壊していくのを目の当たりにしています。
政治の問題は、ビジネスやマネジメントの問題とは異なりますが、組織運営という視点では同じ課題があるといえます。実は、優秀なリーダーほど組織の発展には多様性のある意見が不可欠であることを理解しています。彼らはむしろ異なった視点を提供してくれる人間、自分と反対意見を持つ人間ほど重要視するのです。今回のロシアの歴史的な失敗(まだわかりませんが)を反面教師として、自らの組織運営と人材活用を適正に行うようにしたいものです。
※1:BBC News:https://www.bbc.com/japanese/51828927
※2:Guardian News:https://youtu.be/o9A-u8EoWcI
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