米軍に従事した人は差別できません
パシフィック・アドバイザリー・サービス
代表取締役社長
武本 粧紀子 氏
アメリカの一般企業の従業員ハンドブックに必ず載っていることで、日本の従業員ハンドブックにまず載っていないことの一つに「退役軍人を差別してはいけない」という条項があります。日本では第二次世界大戦の後、実際に戦争が起こっていないので、必要ない、ということもあるのかもしれませんが、米国で人事を担当する方は、人種差別、男女差別と同じように、退役軍人差別が起こらないように、気を付ける必要があります。
軍隊や沿岸警備隊で身に着けたスキルが一般企業で役に立つか、という疑問があります。軍隊経験者よりも、同業他社の経験者を採用したい、と思うのはある意味当然です。特に、国が戦争をしていて、何年も軍隊の生活を余儀なくされた人は、一般企業で役に立つスキルを身に着ける時間がなかったのかもしれません。
国の為に兵役に尽くしていたのに、一般企業で軍隊でのキャリアをその会社にとっては不必要なもの、とみなされ、退役軍人である、というだけで採用を見合わせられる、ということが実際に起こった時代がありました。
リザーブされていて、有事の時に駆り出される人は管理職に着けたくない。会社で必要な時に従軍する為に仕事を抜けるのであれば、管理職にするのは心配であるため、昇進させたくない、というのも雇用者側の心理からすると当然かもしれません。
従軍中に体に怪我をして、後遺症がある可能性がある。心の傷を負っている可能性がある。そのため、会社の健康保険をたくさん使用し、保険の掛け金が値上がりしたら、会社として経費がかかる。やはり、そういうリスクの高い方は雇いたくはありませんよね。
数々の戦争を体験してきたアメリカの社会にとっては、退役軍人の問題が常について回ってきました。その方たちが国のために戦ってきたがために、戦争が終わった後に、一般企業で働くためのスキルがなく、仕事が見つからない、という問題は今始まったわけではありません。
そのため、アメリカでは、従軍する方々に多大なメリットがあるようになっています。
勿論、従軍をすれば退役してからは年金は付きます。一般企業でキャリアを付けるために、最初はエントリーレベルの仕事から安い時給で始めても生活できるようになっています。
大学に進学せずに従軍した人には、退役をしてから州立大学に通うための授業料を負担する制度もあります。退役した後、大学に通って一般の企業で働くためのスキルを身に着けられるということです。
軍隊や沿岸警備隊は国には必要な機関です。そのため、なんとか若い人達を魅了するため、高校や大学には、堂々と軍隊や沿岸警備隊がリクルートに来ますし、卒業式には、従軍する人、従軍した人は成績優秀の学生と並んで、表彰されます。
アメリカ市民でない人が従軍する場合には、超特急でアメリカの市民権をもらえる制度もあります。
しかし、一般企業で、やはり長い間軍隊経験しかない人をいきなり雇うのは、雇用者側からするととても不安なのはわかります。
この時も、採用をお断りするのは構いませんが、「必要なスキルがない」という断り方をする必要があります。間違っても、「軍隊での経験は必要ない」など言って断らないように気を付けましょう。
(参考文献:https://www.eeoc.gov/publications/veterans)
(参考文献:https://www.dol.gov/general/topic/discrimination/vetsdisc)
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