日米租税条約:事業修習者の源泉徴収
CDH会計事務所
米国公認会計士
武藤 登 氏
米国法人に勤務する方が日本に帰国し米国法人の日本支社に勤務することもあるかと思います。もしくは日本に本社がある米国支社に勤務予定の米国居住者の方が日本本社で研修を受けることもあるかと思います。あるいは米国本社に勤務している方が日本の提携会社に研修で一時帰国することがあるかもしれません。今回はこのような場合に発生する172条申告について説明させていただきます。
<研修のための一時帰国>
例えば米国A社に勤務するBさんが、日本にあるA社の提携先C社で研修を受けるため10カ月間日本に滞在することになったとします。日本での研修期間中の給与は全額米国A社から支払われます。このような場合は日本で課税されるのでしょうか。
1.居住者・非居住者の判定
日本の所得税法では、「居住者」とは、国内に「住所」を有し、または、現在まで引き続き1年以上「居所」を有する個人をいい、「居住者」以外の個人を「非居住者」と規定しています。
また日米租税条約では①恒久的住居の場所、②利害関係の中心がある場所、③常用の住居の場所、④国籍の順で判定し、どちらの国の「居住者」となるかを決めます。
つまり日本国内に住所を所有せず、且つ現在まで引き続き1年以上居所を有しないBさんは非居住者とされます。
2.非居住者の課税
非居住者であっても日本国内源泉所得は日本で課税対象となります。この国内源泉所得には人的役務の提供の報酬も含まれます。通常であれば報酬が日本国内源泉所得に該当するかどうかは勤務の場所が日本国内か否かで判定されます。
日本で技術を習得するために研修を受けるBさんは日本で役務を提供していることになります。従って米国A社からその間の報酬を受け取る場合には日本国内源泉所得として課税対象となります。
その報酬の支払い者は支払いの際に20.42%の所得税を源泉徴収する義務があります。もしこの報酬が日本国内で支払われる場合には源泉徴収(源泉分離課税)の対象となりますが、その報酬が日本国外で支払われると、日本での源泉徴収が出来ません。その場合にはその役務の提供者は自ら日本で所得税の確定申告を行う必要があります。これが172条申告と呼ばれるものです。
3.日米租税条約第19条
「教育又は訓練を受けることを主たる目的として一方の締約国内(例えば日本)に滞在する学生又は事業修習者であって、現に他方の締約国(例えば米国)の居住者であるもの又はその滞在の直前に他方の締約国(米国)の居住者であったものがその生計、教育又は訓練のために受け取る給付(当該一方の締約国外からの給付に限る)については当該一方の締約国(日本)に於いて租税を免除する。この条に規定する租税の免除は、事業修習者については、当該一方の締約国(日本)に於いて最初に訓練を開始した日から一年を超えない期間についてのみ適用する。」(注:括弧内の国名は筆者が便宜上挿入しました)
然しながらBさんはこの19条の事業修習者に該当するためA社からその間に支払われる報酬に対しては日本では非課税となり、172条申告の必要もありません。
<注意>
もし、C社が米国A社の支店である場合には、米国A社が日米租税条約第5条に規定する恒久的施設を日本に有していることになり、その支払いは日本国内における給与の支払いと見做され所得税の源泉徴収義務が生じます。
<参考>
居住者と非居住者の区分
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2875.htm
複数の滞在地がある人の場合
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2012.htm
以上
記事の無断転載を禁じます。
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